コラムNo.106 人が育たないという経営者の本心

 

 人材育成において重要なことに「育成者を選定」することが挙げられます。要は誰が育成担当者なのかをはっきりさせることです。これはその時になって行き当たりばったりで決めるということではなく、当コラムで何回もお伝えしている、人材育成マニュアルを含む人材育成の仕組みの中で予め決めておく必要があります。

 

 もちろん小さな店舗では「そんなたいそうな仕組みなどない」という場合が多いでしょうし、あまりに少ない人数でガチガチの仕組みを作っても逆効果にしかなりません。ですので店舗数が12店の場合は社長が自ら教えて構わないですし、むしろ直接教えることでその理念や知識、技術が劣化せずに伝わりやすいので進んでそうするべきでしょう。

 

 ただし、3店舗目を超えてくると社長一人ではなかなか目が届かなくなってきます。常に新人が複数人いる状況になっており、そのすべてを見ることは不可能に近いからです。

 

 ここで人材育成の仕組みが生きてくるのですが、その時に作り始めても遅すぎます。社長自ら教えている12店舗のタイミングで徐々に明文化していき、再現性の高いマニュアル、仕組みに作り上げなくてはなりません。

 

 これらがないままで各店長に丸投げしてしまうと、皆さんのご想像通り、店舗のレベルはバラバラで力の差が歴然となります。店長たちは、こと教えることに関しては素人同然です。仕事のレベルとしては当然一人前になっていますが、「人に教える」ことは全く別の仕事なのです。入ってきた新人に対して、空いた人が適当に、部分部分の業務を自分の基準で教えることは、新人にとってみればわかりにくくて仕方がありません。仕事のつながりも見えず、成長も遅くなります。

 

 だからこそ、冒頭に申し上げたように「育成者」を決めておくべきであり、その大前提として、【育成者の育成】をしておかなければならないのです。

 

 しかしながら、育成者の選定はもとより、育成者の育成を行っている会社は非常に少ないのが現状です。私がコンサルタントとして関わる会社で、最初から育成者としての教育を受けている人は皆無に等しい状況です。当然育成者の選定もその場しのぎとなっており、そのまま行けば多店化は大体失敗への道をたどります。

 

 店舗経営者の皆さんがすべき本来の仕事は「将来をつくっていくこと」です。死ぬまですべて一人でやっていくという場合を除いて、今の、そして現場の仕事はスタッフに任せていくべきであり、経営者は常に前を、未来を向いて新たな仕事を創造していくことこそが絶対的な役割なのです。

 

 自分が育てたスタッフがさらに人を育てる仕組みをつくらない限り、いつまでたっても現場から離れられず、貧乏暇なしの状況に陥ります。その一方で、「人が育たない」と口では言いながら、本心では「オレがいないと…」と思っている経営者も多く、実はその状況が自己満足を誘発し、意識的、無意識的に関わらず、自ら人が育たない状況をつくっている場合もしばしば見受けられます。

 

 いずれにしても、成長するには新陳代謝が必要です。経営者がいつまでも店舗現場に恋々としている状況は、創業期を除き、百害あって一利なしです。店舗には顧客に対してモノやサービスで価値を提供し、顧客自身の問題解決、ひいては社会貢献をする大義があります。

 

 しかし、店舗の役割はこれだけではありません。もっとも抜けやすい視点として、「人を育てる場」としての役割があるのです。これは基本的にどんな店舗でも人材育成を経営の一つの柱として持たなければならないということです。ここを忘れず肝に銘じましょう。

 

 さて、店舗経営者の皆さん。

育成者の選定をしていますか?

育成者の育成ができていますか?