コラムNo.107 育てる人が育っていますか?

 

 店舗ビジネスにおける人材育成では、「育成者」に「誰」がなるのかという非常に重要な課題があります。にもかかわらず、当コラムでも再三にわたりお伝えしている通り、そもそも育成者自体が存在しない店舗、会社も多数あり、その大体において店長がその場しのぎの思い付きで直接指導するか、あるいは新人が入ったその時に適当に担当者を選んで放任するかといった対応になります。

 

 一番適当ではダメな、というよりは経営において最も重要視されるべき「人材育成」がこれでは会社の成長は覚束ないばかりか、間違いなく衰退の道をたどることになります。

 

 とはいえ小さな店舗や会社では育成専門でスタッフを抱えることは非常に難しく、たとえ任せるにしても他業務と兼務させる場合がほとんどでしょう。そうなると現場の仕事をしながら、人材育成という負荷のかかる仕事をしなければならないスタッフはほぼ例外なく疲弊していきます。

 

 人材育成がことのほか難しいのは、その成果が見えにくく、かつ相当の時間がかかることが大きな要因の一つです。しかも時間をかけて丁寧に育てたとしても、全員が会社に残ることはまずありません。業種によっては数年のうちにほとんどのスタッフが辞めていく場合もあるでしょう。

 

 育成を任されたスタッフにとって、こうなった時の無力感は半端ではありません。自分の教え方が悪かったのか、あるいは仕事そのものが面白くなかったのか、あるいは業務がきつすぎたのか、あるいは…と様々な考えが交錯し、それが続くと結局「そういうものなんだ」と思考停止に陥り、人材育成には力が入らない、もしくは入れたくないと考えるようになるのです。

 

 新入社員側から見ても、この状況は非常に由々しき事態です。死んだ魚の目をしたような先輩社員から、適当なその人基準でなおかつ無気力な状態で教えられても、当然楽しくもなく、同じように死んだ魚の目のようなスタッフが一人、また一人と量産されていくだけです(そしてすぐに退職します)。

 

 こうならないためにも経営者はその人材育成の仕組みにおいて、育成マニュアルはもとより、育成者を決めておかねばならないことは、言うまでもないことです。

 

 それでは誰を育成者にするべきなのか。創業初期であれば、社長自ら教えることは当たり前として、その後に関しては自身の「右腕」となっているスタッフに任せるべきだと私は考えます。経営をしていくにあたり、社長だけですべてを回していくには限界があります。創業から様々な悪戦苦闘を経験していく中で、必ず右腕ともいうべき人間が育ってくるはずです(育ってこなければ会社の成長はありません)。

 

 創業からの社長の思いや仕事のノウハウを知り尽くした右腕に対して、社長自身が言語化した育成マニュアルを与え、育成ノウハウを直に教え込む。当たり前に聞こえますが、ここがやれていない店舗、会社が非常に多いのです。

 

 放っておいて勝手に育つ人間は優秀です。優秀な人間は先のない会社をすぐに見抜き、自分を正当に評価、成長させてくれる会社へと転職します。その状況が続くと何とも使えないスタッフばかりとなり、しかも育成者も育成マニュアルもないのですから、残っているスタッフは1ミリも成長せず…あとはご想像の通りです。

 

 ですから経営者は創業時から人材育成に関してしっかりとその計画を考えておく必要があります。「育成者を誰にするのか」をあらかじめ決めておき、そのスタッフに対し育成ノウハウをしっかりと教え込むことで基盤が出来上がるのです。

 

 単に業務についての知識や技術を教えることはそう難しくありませんが、人を育てるという視点に立つと、機械的に教えることは弊害でしかなく、それで通用するのであれば育成者など必要ありません。

 

 当たり前ですが、ひとはその性格や能力など一人一人が違います。育成者の最大の役割として、スタッフ一人一人への細やかな対応が求められます。その基本が育成マニュアルであり、基本を属人化してはならず、骨の髄まで叩き込むべきなのです。基本を身に着けたその先に応用としての「その人らしさ」が出てくるのであり、その逆はないのです。

 

 店舗経営者の皆さんは、思い付きの行き当たりばったりで育成者を決めてはなりません。しっかりと育成の基本を叩き込んだスタッフに任せるべきです。その準備ができておらず、社長自らが教える時間を取れなければ新入社員を入れてはダメなのです。

 

 

 経営者の皆さん

あなたの会社の育成者は誰ですか?

その人は基本ができていますか?