コラムNo.170 無借金経営のリスク

 

 最近、コロナ禍の影響を受けた中小・零細企業向けの経営相談で様々な地域にお伺いしています。業種も様々ですが、置かれた状況はもっと多様で、ひとつとして同じ悩みはありません。

 

 会社全体の資金繰りから従業員の雇用、計画していた新規事業をどうするか…など、通常であればそれらが同時に起こることは少ないのですが、コロナ禍の今、大半の企業が「あちらを立てればこちらが立たず」のジレンマが重なり合い、まさに八方塞がり、万事休す、絶体絶命といった様相を呈しています。

 

 相談会の中で経営者の方々とお話をしていて強く思うのは、危機の際は本当にその人の「価値観」が如実に表れるものだということです。もがき苦しむ中でどう動いていくのか。それを決めるのは最終的に本人の「価値観」しかありません。

 

 時間が限られた相談の中で、経営者の「価値観」を変えることは不可能です。客観的に見れば、誰もが「こうしたほうがよいのに…」と思うことをしない、もしくは躊躇する経営者も少なからずいらっしゃいます。

 

 例えば、現状においてはどの企業でもほぼ例外なく「現金」の重要性が増している中、「借金が嫌いなので借入はしたくない…」という経営者です。収入が途切れず、豊富なキャッシュを持っている企業であればまだしも、中小企業において手元資金に余裕があるところはごく少数です。

 

 当然、借入をしたくない企業にも現金が豊富にあるわけではなく、「借りたら返さなければならないので…」と借金を忌避する経営者の価値観、その根幹にある感情が強すぎ、手元資金の確保という危機時の最重要課題を軽視してしまう結果となるのです。

 

 企業経営には規模の大小にかかわらずお金が必要です。自分で用意した、また自分で稼いだお金だけで経営を回していく「無借金経営」はある意味では素晴らしいことです。ただし、そこには当然リスクも存在します。十分な資金を用意できず好機を逃すことや、危機が長引くことで資金が枯渇し、「座して死を待つ」という経営者として一番やってはならない諦念感情を招いてしまうことです。

 

 「全てを自分の力で乗り切る」ことは一見正しいようですが、度が過ぎれば単なる勘違いであり、明らかに傲慢な態度です。過ぎたるは猶及ばざるが如しの言葉通り、資金調達でも自己資金と借入のバランスを保つことが経営者の仕事であり、そこに経営者のセンスが浮き彫りとなります。

 

 あきらめが悪く、借金を重ねてキズを広げることも問題ですが、「もう何もできない」と簡単にあきらめてしまうのは経営者としての沽券にかかわる大問題です。潔さは悲惨さを伴うともいいます。ともあれ、すべてを決めるのは経営者であるあなたです。コロナ禍のような危機は視野を狭めます。こんな時こそあらゆる人とつながり、自分の価値観を棚卸ししつつ、最善の判断が下せる環境をつくっていきましょう。