ニュースの論点No.120 沈みゆく船なのか

 

 「突破口はデジタル接客 18年度百貨店調査」2019814日、日経MJはこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「中国経済の成長鈍化で訪日中国人客の購買力は落ち込みつつある」「一方で国内客を含めた客単価が増えた店舗は41.1%に及ぶ。従来はあらかじめ決めた指名買いや値ごろ感のある商品を買い求める傾向が強かったが、納得感があれば高額でも購入する傾向が強まる。そこで、百貨店の強みである接客がより重要になってきた。」としています。

 

 人手不足から、百貨店各社では十分な接客ができない状況も多々発生しており、タイトルにもあるとおり、デジタルサービスを駆使して現場の作業を効率化し、接客に集中できる環境を整える動きが加速しています。

 

 接客、翻訳などAIを搭載したタブレット端末を使いながら行ったり、足型の自動測定器を導入したり、店内アナウンサーをAIにしたり…など、デジタルツールを使った業務改革とでも言うべき事例が増えつつあります。これらは現場のスタッフからすれば、非常に良い流れであり、実際に助かるという人も多いのではないでしょうか。

 

 ただし、百貨店については、都心部と地方での格差も大きく、地方の百貨店は収益性が悪化し徐々に淘汰されつつあります。地方ではデジタルサービス云々の前に、まず前提となる売上が取れていません。インバウンド需要がありはするものの、都心部ほどではなく、その恩恵も少なければ、インバウンド需要が減ったとしても経営を直接圧迫する要因にはならないといった皮肉な状況なのです。

 

 さらに地方の百貨店では、その広大な売り場を維持するための人が慢性的に足りていません。百貨店は基本的に各メーカーや販売専門会社に運営を任せている売り場が多く、危機感が薄い社員(百貨店の)が多いのですが、任されているメーカーなどはたまったものではありません。人を入れて売上が上がればいいのですが、ほとんどの店舗ではいいところ現状維持です。

 

 「利益を出すには現状のスタッフ数で運営しなければならないが、それだと店が回らない。休みも取れないし、休憩にもいけない。でも人を入れると利益どころか赤字に転落してしまう…」このジレンマの中で大半の店舗は運営しています。

 

 要するにビジネスモデルの破綻が始まっているということです。そのしわ寄せが一番に来ているのが現場であり、スタッフたちです。都心部の百貨店はまだまだ大丈夫だと思いますが、地方はぎりぎりの状態です。百貨店側に危機感がないこともかなり問題だと感じます。のんきにデジタルサービスで解決できるような状況ではなく、百貨店には相応の覚悟が求められる極めてシビアな状況なのです。

 

 記事中に「百貨店の強みである接客が重要になる」などとありましたが、すでに強みでも何でもなくなっています。派遣社員だらけのつぎはぎになっていますので(派遣が悪いわけではありません)、百貨店としてのブランドなどは幻想になっているのです。

 

 この点、人口も競合店も多い都心部の百貨店の方が様々な戦略を打ち立てていることから(立てざるを得ない)、危機感が強いのは間違いないでしょう(当然ですが)。地方百貨店は、これまでの実績に胡坐をかいて殿様商売をやってきたツケが確実に回ってきます。

 

 タブレットでの接客などという表面的な問題解決ではなく、根本から新陳代謝を行うこと、つまり現場を第一とし、自らリスクを取って仕入れを行い、売り場を作り、運営し、各メーカーや販売会社と協力し、スタッフが働きやすい職場をつくること。売り場をウロウロして何のためにいるのかわからない自社の社員の生産性を上げること(ムダな役職は廃止)は急務と言えます。

 

現状維持では確実に「沈みゆく船」となってしまうでしょう。