ニュースの論点No.42 店舗現場のスペシャリストという選択をする前に

  

 日本経済新聞は2018213日、「販売員専門のキャリアコース はるやま商事」と題した記事を掲載しました。

 

 記事によれば、「紳士服大手のはるやま商事は4月から、社員がずっと販売員としてキャリアを積めるコース“販売員のスペシャリストコース”を新設する」

 

「従来は6年ほど販売員を経験すると店長などのマネジメント職につく必要があった。新制度であればずっと販売員として接客を続けられる一方で、賃金などの処遇はマネジメント職と同等の扱いになる」ということです。

 

 店舗現場で働くと分かりますが、接客そのものが好きで、ずっと現場でお客様を相手に仕事をしたいというスタッフのニーズは少なからずあります。これは飲食でもアパレルでも美容関係でもどの業界でもいえることですね。

 

 大手であれば、マネジメント職と現場のスペシャリストとで別々に追求していく仕組みづくりは可能です。しかし、小規模の店舗は一人で何役もこなさなければ店は回りません。いわゆるプレイングマネージャーとしてやらざるを得ない状況です。

 

 そもそも現場の仕事とマネジメントを明確に分けることも難しく、私はスペシャリストだから、と現場でただ接客やその他のオペレーションをやっておけばいいのかというと決してそうではありません。ある程度の経験を積んだスタッフは、自分だけのことではなく新人の教育や店舗の管理業務をする必要に迫られます。ただでさえ人手不足の昨今、当たり前の話ですね。

 

 勤続年数が長くなると、当然それに伴い給与も上がっていくことがほとんどです。その中で、例えば冒頭の例で考えると、アパレル販売のスキルを磨いていっても、本人の努力の如何を問わずどこかで成長が止まります。環境は常に変わり、それに追いつけなくなるのです。給与が上がり、売上は横ばい、あるいは下がっていくと単純に生産性が落ちます。

 

 職人として長く現場で活躍ができるのは一定の意義があると思う反面、その本人の能力はその職場のみ、良くて業界他社での用途に限定されます。しかもある年齢を境に生産性は必ず落ちます。会社側としても、売り上げが下がっても給与が高止まりしているベテランスタッフは扱いに困ることも多々あります。職人気質のスタッフは、現場以外の仕事のスキルアップをなかなか自ら行わないのも経験上紛うことなき事実です。

 

 本人がそれでいいからという問題でもありません。自分はスペシャリストでいたいといっても、果たしてお客様がそれを求めているのか、という視点も重要です。独りよがりの希望は店舗のバランスを崩します。一つの店舗経験が長くなれば、間違いなく視野が狭くなり、自分を客観視することが難しくなります。自分の能力を過大視するのです。つまり自分が一番できると錯覚するんですね。

 

 店舗現場にも新陳代謝は必要です。経験の長いスタッフがいることにはメリットも多々ありますが、デメリットも当然あります。その中の最たるものが“新人が育たない”ということでしょう。このことは、新たなお客様を取り込んでいくことができなくなるということを意味します。

 

 これは店舗にとっては死活問題です。いくら顧客が大事とはいえ、新規のお客様が全く来なくなると店は立ち行きません。私が見てきた多くの店でも同じようなことが起きています。経験の長い店長やスタッフとともに、顧客歴の長いお得意様。毎日同じようなお店の光景がつづき、売り上げはじりじり下がりはじめます。決して悪いことだとはいいませんが、次世代のことを考えれば、ベテラン勢は次のステージへと移るべきだと私は思います。

 

 さらに私の考えを述べるとすれば、やはり店舗人財の意図的な新陳代謝を仕組みとして持つことです。現場のスペシャリストを否定するものではありませんが、長く同じ現場、あるいは同じ内容の仕事を続けていくとその弊害が大きくなります。お客様にとっても、その人にとっても、また会社にとってもプラスに働かないのです。

 

 単純なジョブローテーションも役に立つとは思いますが、さらに一歩進めて、当人にとって「本当に必要な能力を身につける機会をつくること」が重要な意味を持ちます。一つのスキルだけでは、今後困るのはそのスタッフです。仕事自体がなくなることもありえます。

 

 本人が求めなければ、無理やりさせることもできませんので難しい問題でもあります。しかし、快適な場所では誰も成長せず、いずれその場所もなくなってしまうのです。普段からのコミュニケーションで信頼関係を築き、環境の変化とその対応策を共有することが解決の第一歩となります。

 

 店舗経営者の皆さんは、スタッフのその先を考えねばなりません。視野が狭いままの状態で考えたスタッフ当人の結論は、後悔を招くことも多いのです。このことを頭に入れつつ、人財戦略を創っていきましょう。