ニュースの論点No.58 成功する店舗は上手くいっていることをやめる

   「シダックス、1人カラオケに泣く」日本経済新聞は201861日、こう題した記事を掲載しました。記事によれば、「カラオケ業界に再編の波が押し寄せている。大手のシダックスは『カラオケ館』ブランドで店舗展開するB&V(東京・新宿)にカラオケボックス事業を譲渡、店舗運営から撤退した。ボックスを1人で利用するひとりカラオケが増加。郊外大型店を軸とするシダックスは客単価の下落に耐えきれず採算悪化を招いた」と報じています。

 

 カラオケボックスの市場規模は2016年度で3920億円となっており、ピークと言われる1996年の6600億円と比較すると4割も減少しています。利用人口は5690万人から4720万人と2割減少。またカラオケボックスのルーム数は160680室から134200室とこちらも約2割減少。利用人口とともにルーム数も減少していますが、それ以上に市場規模は縮小しています。

 

 この数字から「客単価の低下」と「1室あたり売上の低下」が読み取れ、それが市場規模の縮小に大きく影響を与えていると言えます。これまでカラオケボックスは、友人同士や会社単位など、団体でのイベントや2次会利用が多く、それに伴う食事、アルコールなどドリンク類の注文が多く入ることで客単価、1室あたり売上を押し上げていました。

 

 しかし現在ではカラオケの利用人口自体の減少もさることながら、今の利用者の特徴として、日中の安価な時間帯でシニアや学生が少人数で使ったり、あるいは冒頭の記事にもあるひとりカラオケが増加しているため客単価、1室あたり売上は伸び悩み、市場の厳しさに拍車をかけています。

 

 この市況の中、シダックスのカラオケ事業は売上のピークが2007年で617億円でしたが、直近の2018年は176億円と何と7割以上!も落としています。要因としては、先述の市場環境の変化に対応できなかったことが大きいでしょう。シダックスは郊外の大型店で広い部屋、そして食事にもこだわった店舗展開をしてきました。

 しかし現在の主たるカラオケ利用者は学生やシニア層となり、車での移動はしない、そもそも車を持っていない人たちです。そしてカラオケボックスの使い方も、大勢で食事をしながら楽しむようなものではなく、先述のように個人や少人数で飲食もほとんどしない利用スタイルとなっており、シダックスが持っていた強みが生かせなくなってきたのです。結果、シダックスは店舗の閉鎖を余儀なくされ、大量閉店へとつながります。最後は今回のニュースにもあるとおり事業の売却となりました。

 

 一方、競合他社は市場が縮小する状況の中で環境の変化に合わせ、ひとりカラオケに特化した店舗や様々なコンセプトルーム、プランを用意し、売上、店舗数を増やしています。業界上位である第一興商のビッグエコー、B&Vのカラオケ館、コシダカHDのまねきねこ、東愛産業のジャンボカラオケ広場などがしのぎを削っており、シダックスはその中で一人乗り遅れた形になっていました。

 

 今回のニュースから学べることは、月並みですが、ビジネスには新陳代謝が必要であるということです。人間が営み、人間を相手にする以上、会社も、提供するモノやサービスも人間と同じような特徴となります。常に新しいモノやサービスを取り入れ、古いものはあっさり捨てていく。会社が長くなると、提供するモノやサービスは必ずその時代と合わなくなります(人間もですね…)。

 

 環境の変化に合わせることができなければ、淘汰されていくだけです。そこに良し悪しはなく、単なる自然の摂理だとも言えます。しかし、何もせずに指をくわえて見ているだけではあまりにももったいないことだと思います。変化を取り入れ、進化していくのが人間であり、人間が営む会社でもあります。

 

 しっかりとアンテナを張り巡らし、何にでも興味を持つこと、そして世の中の変化を感じ取ることがスタートラインです。今はネットをはじめあらゆる情報がどこからでも飛び込んできます。それらを集め、分析することも必要ですが、最も重要な情報は現場にあります。業種業界を問わず現場を見続ければ、生の、一番重要な情報が誰よりも早く手に入るのです。

 

 シダックスも環境の変化には気づいていたはずですが、対応できないまま、結局事業を売却することとなりました。シダックスに限らず、どんな企業でも良かった時期、つまり成功体験があれば、変化があったとしても動けなくなります。以前はこれで上手くいった。今は厳しいが今度もなんとかなるだろう、と。ですから、特に今順調な会社ほど次のステップに向け、変化を取り入れながら、既存のモノやサービスを能動的に変えていくことが肝心なのです。

 

 厳しくなってからでは遅すぎます。手持ちのヒトモノカネ情報という経営資源が十分ではなく、何もできないのです。そうならないためにも、ぜひ積極的に変化を取り入れていき、自ら変わっていくようにしてください。これは経営者の仕事の最たるものなのです。