ニュースの論点No.64 来週、退職します…と言われないために

  「退職理由 伝達遅く」2018716日、日経MJはこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「人材サービス大手のエン・ジャパンによると、勤めている会社に退職理由を伝える時期が退職希望日に近くなっていることがわかった。2週間前が4割に上る。人手不足のなか企業は中途採用で選考期間を短くしており、転職希望者の想定より早く内定を得ていることが背景にある」とのこと。

 

 これは要するに企業間で人財の取り合いになっているという証左です。従業員は待遇も含め、今より自分に合う会社があればすぐにでも転職できる環境にあります(もちろんある程度能力は必要)。まずはそういう時代だと経営者が強く認識することが必要不可欠となります。

 

ここで理解を深めるため、具体的に状況を数字で確認してみましょう。

 

 近年、有効求人倍率は2009年の0.42倍(1963年以来過去最悪)を底に、20184月は1.59倍と急激に伸び続けています。この倍率はバブル期である1990年の1.46倍を超え、1974年の高度経済成長末期の1.93倍に次ぐ高いものとなっています。

 

 高度経済成長期の196070年代は20代の人口が一番多く(団塊の世代)、日本自体が非常に若い国でした。20代以外の若年人口も多く、人口ピラミッドではまさにピラミッド型で下に広がる三角形になっていました。

 

 当時は消費意欲も高く、食べても食べても常にお腹がすいているような若者のそれをほうふつとさせる年々伸びる旺盛な需要、それに伴う物価上昇、給与の増加、団塊ジュニアの誕生による更なる人口の拡大もあり、経済も大きく成長している時期です。

 

 現在はその時期に迫る有効求人倍率となっていますが、時代背景は大きく変わっています。人口は減少し、人口ピラミッドは60代後半から70代が一番多いいびつなつぼ型になり、生産年齢人口も減少しています。失われた20年と言われるように旺盛な需要もなく、経済は停滞したままです。

 

 景気の良さはあまり感じないのに人手は不足し、人手は不足しているのに現金給与総額は上がっていません。アルバイトなどの時給はじわじわと上がりつつありますが、それでも

 この状況からすればまだまだ上がり方は弱いと言えるでしょう。

 

 ちなみに退職を検討するきっかけで最も多かったのは「給与が低かった」で全体の約4割となっています(同記事)。

 

 1970年代は若年人口が増えつつあり、人手不足でも若者が中心となり現場を支えていました。給与は今よりも比較的上がりやすく、終身雇用、年功序列で転職もそう多くない時代です。

 

 ですが今やどんどん若年人口が減っています。人手不足を補完するのが高齢者や主婦になり、さらには外国人になっています。そうなると正社員ではなく、アルバイトやパートなどでの雇用となり、ますます給与は上がりづらくなります。日本人でもその給与額に引っ張られ、良くて横ばいとなります。この状況だと、少しでもいいところで働きたいと転職を考える人も増えるでしょう。

 

 「成長に必要な人財確保」と「維持に必要な人財確保」はまったく質が違います。誰でも成長のためには投資できますが、維持するための投資にはなかなか食指が動きません。それでも現在多くの会社が人財の確保に躍起になっています。成長というよりも維持のために。

 

 とはいえ相当な売り手市場(求職者有利)だということに変わりはありません。先述した人財の取り合いです。ですから、冒頭の記事のように従業員が退職理由を伝えるのがぎりぎりになってしまうのはある意味必然と言えるでしょう。給与額はあまり変わらないものの、選択肢が非常に多くなっており、転職する側が強くなっているのです。

 

 しかし、会社としてはあまりにぎりぎりに言われても困ります。引継ぎはもとより、現場にも負担がかかり、一番はお客様に迷惑がかかります。

 

そもそも退職を伝えるタイミングは法的にどうなっているのでしょうか。

 

民法上では、月給制の社員は退職月の前月の前半までに、またアルバイトなどは2週間前までに退職の意思を伝えることが定められています。一方、会社でも就業規則により退職については、1~3ヶ月前までに申し出るよう取り決めているところが多いでしょう。

 

 民法の方が当然優先されますが、就業規則が無効というわけではなく、通常は就業規則に合わせて対応することが多いと思います。しかしながら、難しいのは、辞める従業員は辞めた後のことを考えないということです(当たり前ですが)。つまり規則通りに事は運ばないのです。

 

 民法や就業規則を出すまでもなく、従業員との信頼関係を築かなければ、会社は今後、生き残ることができないでしょう。いきなり退職を切り出されて困るのは現場、および経営者本人、そして一番はなんといってもお客様です。そうならないために、スタッフと常に密なコミュニケーションを図らなければなりません。

 

 経営者の皆さん、最低でも月1回はミーティングを行っていますか?

 

 従業員が何を考えているのか把握していますか?