ニュースの論点No.73 業界を守るツケ

  「人手不足でも『プロ』拒む 外国人、国家資格とっても働けず」2018915日、日本経済新聞はこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「日本の国家資格を持っているのに、日本で働けない人がいる。外国人の美容師たちだ。日本に留学してプロの技術を身につけても、在留資格がないため帰国する。」

 

 「今春、政府は特定の地域での規制緩和を目指したが、雇用を奪われると懸念した業界団体の反発で見送った。人手が足りないのに外国人を拒む現実が、日本の成長戦略に影を落としている。」とのことです。

 

 政府は都市部の事業者からの要望を受け、規制緩和に動こうとしており、今年の成長戦略の素案段階では「国家戦略特区」を念頭に外国人美容師を認めるという文言が盛り込まれていました。しかし、全日本美容業生活衛生同業組合連合会(全美連)が中心となり素案に反対したことで、その文言は丸ごと削除されました。(同記事より)

 

 その反対理由というのが振るっています。全美連いわく、「理由は2つあり、まず1つ目が地方の美容師が雇用を奪われる心配がある。2つ目に低い賃金で働く外国人が増えれば、国内の美容師の給与が下がりかねない。」ということです。さらに「外国人が低い賃金を受け入れれば大手チェーンが全国に安価なサービスを展開し、地場の店が閉店に追い込まれる。」と懸念しているようです。

 

 …なんだか外国人が相当な悪者になっているような感じですね。ちなみに飲食業でも外国の料理については、原則10年以上の実務経験を持たないと就労ビザが認められないと同記事は伝えています。加えて日本食を学ぶ外国人には在留資格がないとのこと。どの業界でも、外国人にとって日本で働くのはハードルが高いようです。この状況を店舗ビジネス経営者の皆さんはどう感じるでしょうか。

 

 美容師の話に戻りますと、平成27年の数字ですが、美容師数は496697人で前年より9061人増加しています。また同年中に美容師免許を取得した人は19005人で前年度より増加しています。これは美容師数の純増が9061人であり、1万人ほど既存美容師が減少しているということになります。

 

 また、美容所数は237525施設で前年より3436件の増加。20年以上増加基調となっています。平成27年中新たに開業した美容室は12574件です。非常に多く感じますが、純増数が前述の3436件ですので、すなわち廃業した美容室が9138件あることを意味します。

 

 美容室と美容師の減少数がほぼ同じであるのは、個人経営の美容室が多く、その廃業が影響していることもあるでしょう。ただそれよりも多くの美容室が開業し、美容師はその増加率以上に年々増えています。これだけ見るといわゆる買い手市場、つまり雇用する側である美容室経営者が強いように見えますが、飲食業と同じく、美容室も万年人手不足産業です。

 

 求人数も常に多く、タウンワークを今調べただけでも2000件以上の美容師求人があります。低賃金、ハードワーク、少ない休日という悪条件が揃った仕事の代表格でもある美容師は離職率も高く、私のまわりで見れば、同業他社に流れるよりも他業種に転職するパターンが非常に多いといえます。

 

 いまはそこに若年人口の減少にともなう美容学校の生徒数の減少がのしかかります。平成17年の25千人をピークに減少基調で、平成29年は15千人と4割も減っています。

 

 このままの流れでいくとすれば、近い将来一気に美容師数が足りなくなるでしょう。見方を変えれば現状の美容室、美容師数が多いとも言えますが、一気に減るとその影響は相当大きくなると思われます。

 

 ここから考えられることは、日本人や外国人というせまい括りで見ている余裕はないということです。全美連が懸念している、「外国人に雇用を奪われる」というのはまったくの筋違いであり、常に人手不足の美容業界においては、都市部でも地方でも、事業者の皆さんは外国人でも構わないと思う人が大半でしょう。事実、記事にもある通り外国人美容師に関わる規制緩和を働きかけているのは、都市部の美容業の事業者です。

 

 また、全美連の「低い賃金で働く外国人が増えれば、国内の美容師の給与が下がりかねない」という意見もちょっと納得しかねるものです。そもそも美容師の給与は最低レベルにあり、平均280万程です(日本の平均年収は420万)。つまりこれ以上、下がりようがないのです。ただでさえ人手不足の状況で、給与を下げるようなことは自ら首を絞めるようなものです。全く人が集まらなくなってしまいます。そもそも外国人もあまりに低いと働く意欲もなくなり、自国に戻るでしょう。

 

 さらに全美連は「外国人が低い賃金を受け入れれば大手チェーンが全国に安価なサービスを展開し、地場の店が閉店に追い込まれる。」と懸念していますが、もうすでに安価なサービスのチェーン店は存在しています。プラージュやQBハウス(理容)などですね。その低価格チェーンでも人手不足によるカット料金の値上げをせざるを得ない状況です。

 

 仮に大手チェーンが新たに地方へ参入したとしても、それでなくなるような店はそれだけのものなのです。全美連が心配することではありません。

 

 現場は人が足りておらず、日本人や外国人など関係なしに、技術や能力が問題なければ使いたい経営者が多いのは間違いありません。それをその業界団体が足を引っ張るような真似をすれば、業界の未来は暗いと言わざるを得ないでしょう。

 

 新陳代謝なきところに成長も生存もありません。組織を守るため、業界を守るための保身、保護主義に走れば、衰退を自ら早める結果になります。ある程度のルールは必要かもしれませんが、基本的にはオープンにし、健全な競争環境をつくるべきです。このことは業界を問わず言えることであり、経営者の皆さんの「今」の決断が未来をつくっていくのです。