ニュースの論点No.74 組織の老化への対処法

 「『入場料200円の百貨店に』リウボウHDの糸数会長にきく 学べる店舗、東京より台湾」2018924日、日経MJはこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「2013年の社長就任から矢継ぎ早に改革の手を打ってきた、リウボウHDの糸数剛一会長。海外企業やコンビニエンスストアの経営経験を生かし、大胆な手腕でリウボウの再生に取り組む」

 

 「就任直後から考えているのは、『ディズニーランドのような空間』だ。中に入りたくて仕方がなくて、開店前にも並んでしまうような場所にしたい。私の在任中には難しいかもしれないが、最終的には入場料200円をとれるような百貨店を目指す。モノを売る場所ではなく、楽しい空間にモノが売っていたから買う場所へと変わっていくためだ。テーマパークも百貨店も根底は同じ」

 

 那覇市の中心部にあるデパートリウボウは、数年前まで観光客も素通りする寂れた百貨店でした。それが糸数会長の就任以来、業界関係者が注目する稼げる百貨店に変わり始めているとのこと。

 

 具体的な施策としては、化粧品フロアの改装や若者ブランドの導入などと並行し、集客イベントに注力。1711月にはRYUBO COLLECTIONと銘打ち、本格的なファッションショーを開催。沖縄や東京の新鋭デザイナーを中心に、パリコレに出たモデルも使い、入場料2千円と有料かつ安くはない価格で400席のチケットは即完売。

 

 その他にも「インパクト重視」でイベント自体では赤字でも積極的に行い、若者の集客につなげています。さらに、「ここでしか買えないモノ」の選定にも力を入れ、沖縄テイストのこだわりのあるモノをはじめ、国内外から逸品を集めています。その結果、17年度の売上は1948年の創業以来、過去最高となる178億円を計上。独立系百貨店で3期連続増収となっており、その勢いはまだまだ続いている模様です。

 

 記事中では、糸数会長が「地方の百貨店は、うちもそうだったが、結局ただの新宿伊勢丹本店の『みすぼらしい』バージョン。ネット販売も台頭する中、地方の百貨店に来る人は今後さらに減ってしまうだろう」と語っています。

 

 糸数会長は、数年前に見た台湾の百貨店にインスピレーションを受け、目指すべき方向が定まったといいます。独自性のある土産物や雑貨など、まるで美術館のような品揃えで、東京の百貨店を回るより、台湾やタイの百貨店を回る方が勉強になる点が多い、とまで語るほど大きく影響を受けています。

 

 百貨店にとっては厳しい市況の中、徐々に伸ばしているリウボウの事例は非常に参考になる部分が多いと言えます。そもそも、百貨店というビジネスモデルが時代に合わなくなってきていることは、誰が見ても異論の余地はないでしょう。

 

 その中でリウボウは新たな道を探り、糸数会長の優れた洞察のもと、先述のようにさまざまな施策をおこない、過去最高売上を計上するまでになりました。ただし、地方の百貨店がリウボウの施策をそのまま真似してもうまくはいかないでしょう。まずは自社の状況を客観的に把握しなければなりません。いきなりファッションショーなどをおこなっても、お客様もスタッフも誰もついてこないでしょう。

 

 加えて、自社に明確なビジョンがなければ、他社の成功事例は害悪にすらなります。点だけを見てもダメで、全体の中で点が線になり、面となり、立体的なビジョンとなるまでに、それぞれがどうつながっているのか。ここをしっかりと洞察しなければ他社を研究する意味はありません。

 

 さらに強力なリーダーシップも必要です。アイデアを思いつくのは出来たとしても、それを実行に移し、実績につなげるにはトップが率先して動かなければ、まず成功にはおぼつかないでしょう。

 

この点、リウボウは自社内外の状況を正確に把握および分析し、その上で明確なビジョン、具体的施策、強力なリーダーシップがうまくかみ合ったことで成果が表れています。

 

 百貨店各社が参考にするには良い事例ですが、そこに通底する、目には見えないビジョンやリーダーシップ、実現しなかった施策のアイデアなども含めた「経営の軸」を理解できなければ安易に真似をするのはやめたほうがいいでしょう。

 

 今回のリウボウの事例は「改革」ともいえるものです。うちでもぜひやっていきたい!という百貨店もあるかとは思いますが、残念ながら、ほとんどの場合、社内から改革はできません。会社を本当に変えることができるのは外部から来た人間です。何のしがらみもない人間でなければ、これまでと違うやり方はできないのです。さらには強力なリーダーシップがなければ既存社員はついてきません。改革が最初からうまくいくはずもなく、そこから反対分子も多数出てきます。

 

 これは百貨店に限らず、どんなに小さな店舗でも、業績低迷をくつがえす改革は困難と仕事となります。しかし、やらなければ生き残れない店舗が大半でしょう。

 

 まずは改革ほどの大きさでなくとも、どんなに小さなことでも「改善」を定期的、恒常的におこなう仕組みを作りましょう。組織が衰退する一番の要因は、外部環境の変化よりも組織の新陳代謝がなされないこと、つまり「老化」することです。

 

 単に平均年齢が若いことがいいということではなく、時代に合わせたビジネスの仕組み、変化を取り入れる柔軟性、過去の成功にとらわれないベンチャー気質を持ち続けることができる組織づくりをおこなうことです。組織の老化は避けがたいものでもありますが、人間個人と同じく、普段からの生活習慣で全く違う結果となります。

 

 改善すらできていない組織に改革をおこなうことは危険です。例えれば、それがどんなに優れた外科医でも手術は間違いなく失敗します。そもそも手術に持ちこたえることができる体力が無いのです。さらに病状は末期という状況です。

 

 そうならないためにも、まずは普段の業務をしっかりとおこない、少しでもお客様にとって役に立つように、提供するモノやサービスを磨いていきましょう。大きな飛躍はそこから始まるのです。