ニュースの論点No.82 自己評価が高すぎるブランドの行く末

 

 「すし店『久兵衛』オークラを提訴 主要エリアを外された」20181113日、日本経済新聞はこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「ホテルオークラの建て替えに伴って店舗が主要エリアから外されたとして、すし店「久兵衛」がオークラに1千万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴していたことが13日、分かった。」

 

 「訴えなどによると、久兵衛は1964年から、オークラ直営の和食店「山里」などがある棟に店舗を構えていた。しかし、来年9月開業の新ホテルでは、別棟を指定された。アーケード街の片隅で、高級店にはそぐわない場所だと主張している」としています。

 

 久兵衛は1935年の創業であり、ウニやイクラの軍艦巻きを考案したことでも有名です。その客層も北大路魯山人をはじめ、志賀直哉、吉田茂、クリントン元大統領、オバマ前大統領などそうそうたる顔ぶれのメンバーが揃っています。

 

 名実ともに高級すし店としてトップクラスの久兵衛がなぜオークラを提訴するに至ったのでしょうか。その背景には、オークラと久兵衛だけの問題ではなく、もっと広くホテル業界、すし業界を含めた大きなうねりが見えてきます。

 

 近年、ホテル業界は都心の高級ホテルをはじめ、全国各地で様々なホテルが建て替え、あるいは新規参入により競争が激しくなっています。当然オークラも指を咥えて見ているわけにはいかず、建て替える必要はなかったとの声もある中、今回の建て替え、それに伴い飲食店、特に和食の強化を志向しています。

 

 そんな中、久兵衛の元弟子が経営しているすし店が、久兵衛を押しのけてオークラ建て替え後の直営和食店「山里」に入る予定となっています。またオークラ以外にも、久兵衛やその他のすし店を独立した弟子たちが運営する店舗が銀座エリアに増えており、高級すし店業界は多少の賑わいを見せています。

 

 これらの状況から言えることは、要するに新陳代謝の大きな波が来たタイミングであったということです。つまり久兵衛側がじたばたしてもその流れには逆らえないということです。

 

 久兵衛内部の人間としては、今まで長期にわたりオークラに貢献したことがすべてご破算にされたような心持になったとしてもおかしくありません。それにしても、裁判沙汰でイメージ悪化によるブランド価値の毀損や、様々な取引先との今後の関係性などもお構いなしに提訴までするということは、オークラに対して外からはうかがい知れない強烈な恨みつらみ(逆恨み?)があったのでは…と勘ぐってしまいます。

 

 しかしながら、久兵衛にとってこの提訴はほとんどメリットがないといえるでしょう。勝っても負けてもホテル側との関係性は良くはならず、出店している他のホテルからも今後の関係性に疑念を持たれることは間違いありません。先述のように自己革新もせず新陳代謝に逆らっても無意味なのです。ついでに自身が気にしている、店格も下がるでしょう。

 

 そもそも自店のブランドに自信があれば提訴する必要もなく、出したいところに出せばよい話です。またホテル側もそれを評価していれば辺鄙な場所に移動させることはありません(今回が客観的に見て辺鄙な場所かどうかはわかりませんが)。久兵衛は老舗として、いまだ力はあると思いますが、時代の流れに乗り切れなくなっていることが露呈してきているのではないでしょうか。

 

 店舗は永遠にその人気が続くものではありません。老舗とはいえ、組織は生き物です。その新陳代謝の鈍化から逃れることはできない宿命なのです。力ずくで無理に抗ったとしても、寿命を縮めるだけでしょう。

 

 私に言わせれば、提訴する時間、労力、お金があるのであれば、その資源を店舗の改革に使ったほうが間違いなくよりよい未来が開けます。ぜひそのエネルギーをお客様へ向けるべく、頑張っていただきたいと切に願います。