ニュースの論点No.602 どの道を進むか

 「114時間以上働いても『手取り15万円』美容師らの苦境」20221218日、Yahoo!ニュースはこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「美容室は全国で26万施設を数え、コンビニエンスストアの4.5倍もある。ところが、施設が増え続ける裏では、『長時間労働なのに給料があまりに低い』と悩む人たちがいる。」としています。

 

 私の周りにはクライアントも含め、美容関係者が少なくありません。美容師はもとより、美容ディーラーや美容室オーナー、美容学校幹部や職員など…。一部「そこそこ儲かっている」という話は聞きますが、大半は「ちょっと厳しいかな」的な答えが返ってきます。

 

 最近は一人サロンを志向している人も増え、店舗の小型化が進んでいます。もちろん、一人でも、うまくやれば多少稼ぐことができます。しかしながら「儲かっている」人のほとんどは多店舗展開するオーナーではないでしょうか。

 

 そもそも一人サロンでは売上上限が明確です。顧客対応人数は1日あたり6人程度が限界でしょう。あとは客単価と営業日数がわかれば売上上限が簡単に算出できます。客単価8000円、月間営業日数25日だとすれば、6人×8000円×25日で、月間売上120万が上限となります。

 

 「お、なかなかいけるな」と思った方。結構甘いかもしれません。上記の計算はあくまで上限であり、限界まで頑張ったらこの数字になるという目安です。まずここまで行ける人は少ないでしょう。

 

 なぜか。冒頭のように美容室の数はずっと増え続けています。つまりライバルが増え続けているのです。しかも、多くのお客はどこかの美容室をリピート利用している顧客です。加えて、少子化、高齢化で新規客の母数は減り続けています。

 

 ちなみに一人サロンの上限売上を獲得するには、絶対数で300客が必要になります(顧客が2か月に1回利用すると仮定した場合。2か月に1回はちょっと多めですが)。果たしてこの客数が本当に取れるのか。

 

 補足として、少し乱暴な計算をします。美容室の利用見込客を日本の生産年齢人口(15歳以上~65歳未満)と同数とした場合、約7500万人が見込客数になります。それを美容室数26万件で割ると、1店舗当たり288名になります。※男性の理容室利用率を考慮すればもっと少なくなります。

 

 つまり、一人美容室で(というより美容業界全体で)300名以上の顧客を獲得するのは非常に困難な状況だということです。

 

 せっかくなのでもうちょっと試算してみます。美容師一人当たりの平均売上がどのくらいになるか見てみましょう。美容師数は全国で約55万人です。先ほどの生産年齢人口の方々が仮に1回あたり8000円、年に6回美容室を利用したとした場合、8000円×6×7500万÷55万人=654万円です。美容師一人当たり年間売上は654万円なのです。ただし、これはかなり高く見積もってこの数字です。

 

 数字をより正確にするために、違う角度からも試算します。矢野経済研究所が発表した美容サロン市場は1.43兆円。単純にこれを美容師数で割れば、1.43兆円÷55万人=260万円となります。前段の計算は積み上げで高めの設定にしていましたので、こちらの方がもっとリアルな数字となるでしょう。

 

 さて、あくまで平均値ですが、一人当たり260万円の売上です。利益ではありません。ここに美容業界の低賃金の理由が凝縮されていると私は思います。営業形態、店舗や立地によって差はあれど、非常に厳しい現実ではないでしょうか。

 

 この数字から、一部に成功した店舗がある中で、大半の店舗は平均以下の収益状況になっていることが推測されます。この点、これから業界に入る方、あるいはすでに長年働いている方は、ご自身の戦略を持って臨むことは必須です。何もしなければ、間違いなく平均値に回帰していくでしょう。

 

 これは美容関係者に限らずですが、まずは自分の強み、セールスポイントは何なのか明確にしましょう。そのうえで、どのような形態で働くのか。それともオーナーになって多店化するのか。あるいは新たな事業を立ち上げるのか。進むべき道を決めましょう。現場での仕事の延長線上では、あなたの隠れた強みが生かせないままになるかもしれません。

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