
政府は2025年度の最低賃金を全国加重平均で時給1118円とする方針を示しました。昨年度から63円、率にして6.0%の引き上げは制度史上最大です。この改定が実現すれば、すべての都道府県で時給が1000円を超え、東京は1226円になります。
政府は「2020年代に平均1500円」という旗も掲げていますが、現実とのギャップはまだ大きいままです。数字のインパクトは大きいものの、果たして現場はどう感じているでしょうか。
人手不足が深刻な飲食・小売り・サービスの現場では、採用競争がすでに賃金を押し上げていました。今回の強制引き上げは“追い打ち”である一方、社会保険料も連動して上がるため手取りが増えにくい構造になっています。
6月の統計によれば食料全体の物価は前年同月比7.2%、生鮮食品を除く食料は8.2%増と生活コストは上昇し続けています。賃金と物価の綱引きが激しさを増す中、企業も家計も余裕を失いかねません。
自社の数字を直視してみましょう。例えば時給1118円で月174時間働く従業員の総人件費は約19万4000円です。企業が持続的に利益を出すには少なくとも給与の2倍、理想は3倍の粗利が必要とされます。
つまり一人当たり約58万円の「粗利」を設計できなければ、事業はじきに息切れします。粗利率30%の小売業なら月売上194万円、粗利率70%の飲食業でも83万円が必要です。この計算をしてみて、自社が“赤字人員”を抱えていないか確認してみましょう。
翻って、「値上げをしたら客が減る」という声を多く聞きますが、価格は単なる数字ではなく、顧客に対する約束そのものです。産地や製法へのこだわり、待ち時間の短縮、専門性の高い接客。これらが具体的に語られれば、価格は体験のチケットに変わります。逆に価値の説明がないまま価格だけを変えれば反発されて当然です。あなたの店は商品の背景を語れているでしょうか。
打ち手は三つあります。第一に、一人当たりの売上・粗利目標を日次で共有し、数字に基づく行動を習慣にすること。第二に、社会保険料込みの“総人件費時給”を基準に値付けを再構築し、逆ざや商品を排除すること。第三に、業務改善助成金やIT導入補助金を活用して省力化設備やAIレジ、セルフオーダー端末への投資を前倒しし、余力を接客や提案に振り向けることです。これらはすべて“粗利三倍体質”への筋トレになります。
最低賃金は企業が動かせない定数ですが、粗利構造と提供価値は自在に変えられる変数です。数字を恐れて思考停止するか、数字を味方に戦略を描くかで未来は大きく変わります。
粗利三倍の視点でビジネスモデルを磨き、顧客との約束を明確にすれば、強制コスト増はむしろ成長への着火剤となります。さて、いま貴社の一人当たり粗利はいくらでしょうか。早速今から電卓を叩き、数字を把握するところから始めましょう。

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