コラムNo.949 人と組織が変わらない理由

中小企業診断士として数多くの企業を支援する中で、ある共通の壁に直面してきました。最初の面談では、どの経営者の方も「ここで変わりたいんです」「今のままではダメなんです」と異口同音に熱く語られます。

しかしながら、いざ経営改善支援がスタートすると8割の企業が途中で動かなくなってしまいます。経営者の口から出てくる理由は、決まって「忙しい」「人がいない」「お金がない」の3つです。

もちろん、中小企業において経営資源の不足は深刻な問題です。しかし、改善が止まる真の理由はそこにはありません。ハーバード大学のロバート・キーガン教授らの研究によれば、その正体は「心理的免疫メカニズム」です。

人間の深層心理には、現状を維持しようとする強力な防衛本能が備わっています。頭では「権限を委譲したい」「新しいやり方を取り入れたい」とアクセルを踏んでいても、無意識のうちに猛烈なブレーキを踏んでいるのです。

このブレーキの正体は、「裏の目標」と呼ばれるものです。例えば「部下に任せたい」と言いながら細かく口出しする裏には、「自分がいちばん有能でいたい」「失敗して評価を落とすのが怖い」という本音が隠れています。

さらにその奥には、「自分が現場を見なければ、会社は必ず崩壊する」といった強力な固定観念が存在します。この「裏の目標」と「固定観念」が心の免疫システムとして働き、変化を全力で排除しようとするのです。

そして、変わることの難易度や苦痛の度合いは人によって全く違います。変革とは画一的なものではありません。経営者自身のパーソナリティやこれまでの強烈な成功体験によって、免疫の強さは変わります。

また、会社が現在置かれている状況も影響します。倒産寸前の火事場であれば否応なく変われますが、ある程度利益が出ている状態では、あえて痛みを伴う変化を避けたくなります。時代背景によっても求められるリーダー像は異なります。

では、この強力な免疫システムをどう解除すればよいのでしょうか。決して「気合」や「意志の力」で突破できるものではありません。この壁を越えるための処方箋は、時間をかけて自分の本音と向き合い、徐々に進めることです。

まずは自身の「裏の目標」に気づき、「現場を見ないと崩壊する」という固定観念を単なる思い込みに格下げすることです。その上で、致命傷にならない小さな案件で部下に任せてみるなど、安全な小さな実験を繰り返します。

この「意外と大丈夫だった」という小さな体験の積み重ねが、強固な免疫を少しずつ溶かしていきます。しかし、経営者が自身の恐怖や自信のなさといった「本音」に気づき、それを受け入れるのは非常に孤独で耐え難い作業です。そもそも自分一人で自身を客観視するのも難しい。

だからこそ、我々のような支援者の存在意義があります。経営者から本当の恐怖や葛藤を引き出すには、小手先の手法は通用しません。

支援者が本音でぶつかり、「最後まで泥をかぶり、責任を持って一緒にやり遂げる」という覚悟を示す。その覚悟が伝わって初めて、経営者も強固な防衛本能を解き、本音を打ち明けてくれます。そこからが経営改善のスタートになります。

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