「自分は正しい」が無駄な争いを生む

仕事柄、中小企業の経営者団体や士業のネットワークなど、さまざまな組織に身を置いています。そこでいつも不思議でならないのは、「目指す方向(ビジョン)は同じはずなのに、なぜか内部で衝突やいさかいが絶えない」という光景です。

例えるなら、目指す山頂は同じなのに「どのルートから登るか」「どんな装備で行くか」をめぐって揉めている状態です。

それぞれの主張には、それなりの論理や根拠があります。しかし、客観的に見れば、正直なところ「どのルートを選んでも結果は大同小異」というケースが少なくありません。

要するに、議論の本質は戦略の優劣ではなく、「自分にとって利があるか(または不都合がないか)」、あるいは「単なる人の好き嫌い」にすり替わっているのです。そこには、今の居心地を守りたいという「現状維持バイアス」も強く働いています。

■組織の「老化」と新陳代謝の必要性

組織は、新陳代謝ができなければ確実に衰退します。 どれほど優れた会社や組織でも、長い年月を経れば制度も人も「老化」します。人間であれば、老化に無理に抗わず自然のままに生きるのも一つの美学でしょう。しかし、組織は違います。

組織とはそもそも「解決すべき課題」があるから存在しています。時代の要請や顧客の課題に合わせて絶えず新陳代謝し、変わり続けなければ、存在する理由を失ってしまうのです。

そこで組織の現場でよく目にするのが、新しいことに挑もうとする若手の足を引っ張る「古参メンバー」の存在です。

「問題の大半は現状維持を望む古参側にある」と言いたいところですが、もちろん若手にも落ち度や経験不足はあります。若手の斬新なアイデアが常に正しいわけではありません。

厄介なのは、ここに「人の好き嫌い」や「感情のもつれ」が絡んでくることです。 フラットに判断すればすんなり通るはずの提案が、なぜかこじれて実現しない。傍から見れば首をかしげるしかない非合理的な意思決定が、日常茶飯事として起きています。

■根本原因は「コミュニケーション不足」ではなく「メタ認知の欠如」

これを突き詰めると、「コミュニケーション不足」という言葉に行き着きます。誰もが自分本位になりすぎ、相手の背景や感情を想像できていない状態です。

しかし、真の問題はさらに深いところにあります。組織のメンバーにヒアリングをすると、誰もが「コミュニケーション不足が原因だ」と頭ではわかっています。問題は、「自分はできている」「悪いのは相手だ」と思い込んでいることです。

つまり、「メタ認知(自分を客観視し、俯瞰する力)」が圧倒的に欠けているのです。 自分が問題の発端かもしれない、という可能性に気づいていない。誰もが「自分の正義」を信じて疑わない。戦争でさえ、お互いの「正義」がぶつかり合った末に起きるのと同じ構造が、組織の小さな会議室でも起きています。

■スキルを凌駕するのは「人としてのあり方」

現在、マネジメントの現場では「傾聴」「コーチング」「1on1」といったコミュニケーションスキルが推奨されています。確かにこれらも大切です。 しかし、それ以上に重要なのは、リーダーシップの根幹である「人間としての信頼(あり方)」です。

「自分自身の言動が一貫しているか」

「小さな約束を守っているか」

「相手の立場や役職によって態度を変えていないか」

「組織が窮地に立ったとき、責任から逃げていないか」

どれほど高度なコーチングスキルを学んでも、この「人としての信頼」が担保されていなければ、どんな言葉も相手の心には届きません。

組織の壁を越え、真の意味で人を動かすのは、結局のところその人の「あり方」です。私自身、中小企業を支援する立場としてこの自戒を常に胸に刻み、日々の仕事に向き合っていきたいと思います。

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