
先日、他県の商業施設にある飲食店に入りました。特に忙しそうな時間ではなかったのですが、「提供に時間がかかるけど大丈夫か」と強い口調で言われ、その後のやり取りでも歓迎されていない様子だったので、思わず出てきてしまいました。
結局、施設内の他の店に行ったのですが、そこでは普通に案内され、おすすめのメニューを頼んで出発までの時間を楽しむことができました。
食事をしたお店の接客は特に飛びぬけてよかった、というわけでもなく、平均的な感じだったと思います。ただ、その時は1軒目の対応があったので、通常の対応でも“すごくいい感じ”の印象になりました。
アンカリングという言葉をご存じでしょうか。最初に提示された情報が基準点(アンカー)となり、その後の判断に影響を与える心理的傾向のことです。たとえば、最初に価格を1万円と提示した後、5千円にするとかなり安く感じます。この最初の1万円がアンカーです。
アンカーは数値情報だけでなく、意味情報でも機能します。好印象、悪印象もアンカーとなり得、それが基準となってその後の判断に影響を与えるのです。
ある店舗で感じの良い接客を受けた後、今度は同じ店で別のスタッフに感じの悪い接客を受けたとします。この場合、最初の接客がアンカーとなって店舗に対する印象は悪くなり、顧客満足度は下がります。
これは店舗を利用する前の段階にも言えることで、見込客は店舗側がウェブやチラシなどで発信する様々な情報によって、意識・無意識的に基準点が設定されています。店舗を利用した際にこの基準点を超えれば満足度が高まり、逆だと不満が溜まっていきます。
さらに話を広げると、アンカリングは会社と従業員の関係にも当てはまります。求職者は会社のあらゆる情報を集め、自分なりの基準値を設定します。そこに合う会社に応募し、採用されれば働き始めます。
ところが、大体において会社の情報は「お化粧」をしています。つまり良く見せている。入社後、「思っていたのと違う」「こんなはずではなかった」と、従業員満足は低下していきます。
見込客は利用前と利用後、求職者は採用前と採用後、それぞれの基準値によって状況を判断します。基準値を高く持ち過ぎれば幻滅し、基準値が低すぎるとそもそも関わろうとは思わない。
見込客や従業員の基準値をどう設定するか。ここに満足度向上のカギが隠されています。基準値とは、ある意味で「期待値」とも言えます。上がりすぎた期待値は、容易に期待を裏切るため、多くの場合1回きりの効果でその後は誰も寄り付かなくなります。
この点、最も大事なのは、「事実」を伝えることです。いい部分ばかり見せようとしない。一方で「事実だけだと地味だし、他の会社に見劣りしてしまう」とも聞きます。
しかしながら、よくよく話を聞くと、“当たり前”と思ってやっていることにものすごい「宝」が眠っている。材料や加工方法や時間のかけ方、お客様への接し方やアフターフォロー、挙げればキリがないくらいのこだわりがある。
自分が当たり前と思っていることに強みは宿ります。ただ、自分のことは自分が一番わからない。経営者の皆さん。ぜひ客観的な視点で見てもらいましょう。まずは身近な方で構いません。第三者の視点が入るだけでも可能性は広がります。

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