ニュースの論点No.858 一時的な収入に騙されない

TSMC進出も財政悪化、熊本県 5年で685億円不足」202561日、共同通信はこう題した記事を掲載しました。

 

台湾TSMCが熊本に工場を構えたことで、静かな田園が一夜でクレーンだらけになり、農地を売った地主が「億り人」になったというエピソード。

 

また昼は弁当店に長蛇の列、夜はホテルが満室。表向きはバラ色ですが、県の試算では202630年度の財源不足が685億円に膨らむ見込みです。

 

先に道路や設備を整え、補助金を交付した前払いが重荷となる一方で、法人税の多くは国へ流れてしまう。地域が熱気に包まれる裏側で自治体の財布は寒風にさらされている状況です。

 

こうした成長のパラドックスは、再開発が進む首都圏のベイエリアや、データセンターが集積する北陸の工業団地でも確認できます。

 

プロジェクトの開始時点でキャッシュアウトが山になり、キャッシュインは後から細く長くやって来る。その時間差を読まずに「誘致=即黒字」と信じ込むと、企業も自治体も資金繰りに窮してしまいます。

 

中小企業経営でも同じです。最初に押さえるべきは、一時的な点のキャッシュと継続的な線のキャッシュフローを分けて考えることです。

 

土地売却益や補助金は花火のように派手ですが、固定資産税・人件費・金利は地味に積み上がります。浮いた資金を遊ばせず、収益を生み続ける設備やデジタル化に投じる。「現金から仕組みへ」の再投資が欠かせません。

 

付加価値の漏れを防ぐ視点も必要です。熊本では半導体装置メーカーの本社機能が東京に集中しており、利益も税金も県外に流れがちです。設計やデータ分析といった頭脳業務を現地に置き、地元の人材育成や大学との共同研究に投資すれば、税収と雇用を地域に残したまま競争優位も築けます。

 

さらに、人と住まいの不足が招くコストインフレへの備えが重要です。家賃や時給が上がれば、自社のサプライヤーも値上げを迫られます。需要が旺盛な今こそ、業務の標準化や自動化で生産性を底上げし、価格転嫁余地を確保しておく。遅れて対策を打つと、相場だけが先に走り、利益を削り取られます。

 

自治体とリスクを分かち合うコミュニケーションも必須です。公共インフラは企業の生命線であり、そのコストを誰が負担するかは地域の持続性を左右します。固定資産税の増分を道路整備等に充てるTIF(タックス・インクリメント・ファイナンス)や、国庫補助の上積みを共同で提案することで、企業は安定操業を得て自治体も財政不安を抑えられます。

 

数字の派手さに目を奪われず、時間差リスクと地域バランスシートを読み解く。熊本の半導体バブルは、その目利き力を全国の経営者に問うています。キャッシュのにつなげた企業だけが、バブルが去った後も静かに長期利益を獲得し続けることができます。

 

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