コラムNo.903 花だけに目を奪われるな

言語学者の外山滋比古氏は著書『思考の整理学』の中で、こう述べています。

「われわれは、花を見て、枝葉を見ない。かりに枝葉は見ても、幹には目を向けない。まして根のことは考えようともしない。とかく花という結果のみに目を奪われて、根幹に思い及ばない。

 

聞くところによると、植物は地上に見えている部分と地下にかくれた根とは形もほぼ同形でシンメトリーをなしているという。

 

花が咲くのも地下の大きな組織があるからこそだ。知識も人間という木の咲かせた花である。美しいからといって花だけを切ってきて、花瓶にさしおいても、すぐ散ってしまう。花が自分のものになったのでないことはこれひとつ見てもわかる。」

 

この一節は、現代の経営にそのまま当てはまります。私たちはつい、成果というばかりを見てしまいます。売上やフォロワー数、補助金の額、そして「コスパ」「タイパ」といった言葉が象徴する効率もその延長です。

 

もちろん無駄を省くことは大切ですが、行き過ぎると「根を育てる時間」まで削ってしまう。結果として、短期的な数字は整っても、長期的な成長が止まってしまいます。コスパやタイパばかりを追う経営は、木の根を削って枝葉を広げようとするようなものです。

 

一方で、根がしっかりしている企業は、表面的な効率よりも「意味」や「つながり」を大切にします。例えば、社員教育に時間をかけ、顧客と丁寧に対話する。短期的に見れば非効率でも、それが組織の栄養となり、やがて大きな枝と強い幹を育てます。

 

マーケティングも同じです。マーケティングは花を咲かせる技術ではなく、花をよく見せる技術です。広告を洗練させ、SNSで話題をつくることはできても、肝心の花が自社の根から咲いていなければ、すぐに枯れてしまいます。

 

AIもまた、枝葉にも花にもなりません。AIが導き出す答えは、過去のデータの組み合わせにすぎず、そこに感情も信念もありません。AIが形を整え、人が魂を込める。この順序を誤れば、「仏作って魂入れず」となるだけです。

 

経営における根とは、経営者自身の「思い」です。自分たちは何のために存在し、誰にどんな価値を届けたいのか。この思うが根であり、企業の生命線です。

 

一方、考えるは、その思いを形にする行為です。事業計画や戦略づくりは、思いを現実へとつなぐ幹の役割を果たします。思うだけでは実現せず、考えるだけでは続かない。両者が結びついてこそ、企業は生き続けるのです。

 

もし今、コスパやタイパ、効率化ばかりを追っているとしたら、少し立ち止まって考えてみてください。自社の根は、どこに張っているでしょうか。その花は、本当に自分たちの土から育ったものでしょうか。それとも、どこかから持ってきた花を飾っているだけではないでしょうか。

 

枝葉や花ばかりを見てしまう時代だからこそ、根を強くすることが何よりの競争力になります。見えないところで根を張る努力こそが、企業を長く生かし続ける力になるのです。

 

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