コラムNo.947 角度より面積

100年以上続いている会社が日本にどれくらいあるか、ご存じでしょうか。

一般に「企業の寿命は30年」と言われますが、これは単なる統計上の数字ではありません。私自身、多くの経営現場で、一世代の交代時期である創業30年を待たずに力尽きていく企業を数多く目の当たりにしてきました。

30年の壁は非常に高く、厳しい現実としてそこにあります。しかし、その壁を悠々と越え、100年の大台に乗る企業が日本には厳然として存在します。東京商工リサーチの調査(2024年9月時点)によれば、国内の老舗企業は4万5284社にのぼり、日本は世界でも類を見ない「老舗大国」です。

なぜ彼らは「30年の壁」を突破できたのか。そのヒントは、経営の指標を「微分」に置くか「積分」に置くかの違いにあります。微分とは瞬間的な「角度」であり、会計で言えばPL(損益計算書)です。今期の成長率や利益率という単年の数値は、角度が急なほど勢いはありますが、非常に変化に脆いものです。

角度がゼロになった瞬間に、微分に頼る経営は推進力を失います。対して積分とは、長年かけて積み上げた信頼や技術、財務的なゆとりという「面積」を指します。これは会計におけるBS(貸借対照表)そのものです。老舗企業の約4割は売上高1億円未満ですが、彼らはPL上の急激な角度を追わず、着実にBSを厚くしてきました。

その「薄皮を剥ぐような歩み」を100年継続することで、結果として膨大な積分の面積、すなわち強固な参入障壁や資産を築いてきたのです。老舗の顔ぶれを見ると、清酒製造などの醸造系や貸事務所業が上位を占めています。時間をかけて「信頼」を醸成する業種は、その蓄積そのものがBSの価値となります。

また、本業の利益を不動産等の資産に換えてきた企業は、高い自己資本比率と営業外収益というクッションを持ちます。本業のPLが一時的に赤字、つまり微分がマイナスになっても、積み上げた積分の面積であるBSが会社を支えるのです。老舗の経常利益率が全業種平均より高い背景には、この積分の力があります。

ここで重要なのは、目先のPLという微分にとらわれないこと、そして「続けること」自体を目的化させないことです。実は、老舗企業の倒産は2024年、過去10年で最多水準にあります。過去の積分を食いつぶすだけで、現代に合わせた微調整を怠れば、いかに巨大なBSを持つ老舗といえどいずれ底を突いてしまいます。

さらに、経営者として心得ておくべき真理があります。それは「企業には寿命がある」ということです。30年という一つの節目を知っているからこそ、今、何を積み上げるべきかが見えてきます。闇雲に、あるいは不自然に寿命を延ばそうとすることは、時に組織の健全性を損なうことさえあるのです。

企業の寿命を正しく認識し、その限られた時間の中で、いかに「後世に手渡せる面積」を1ミリでも広げるか。その覚悟こそが、結果として30年の壁を越え、老舗への道を切り拓きます。一過性のPLに一喜一憂するのをやめ、BSという積分の視点を持つこと。それが、変化の激しい現代を生き抜く経営の本質です。

いつか寿命を迎えるその時、自社のBSには何が残っているでしょうか。微分的な成長をきっかけにしつつも、常に積分の面積を見つめる経営。それこそが、一過性の流行で終わる30年企業と、歴史を創る100年企業を分かつ、決定的な「差」であると私は確信しています。

    今週の経営コラムを無料でお届け 無料メールマガジン登録はこちら
    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!

    コメント

    コメントする

    目次