ニュースの論点No.946 一気に伸びれば一気に落ちる

「鰻の成瀬」がわずか3年で《閉店ラッシュ→破産寸前》にまで追い込まれるに至った「残当すぎる原因」2026年4月8日、現代ビジネスはこう題した記事を掲載しました。

昨今、日本の外食市場では「鰻の成瀬」や「高級食パン専門店」のように、特定の商材に絞って短期間で数百店舗を広げるビジネスモデルが注目を集めてきました。しかし、その多くが驚異的なスピードで拡大した直後、まるで坂道を転げ落ちるように閉店ラッシュや経営危機に陥る「共通の末路」を辿っています。

こうしたフランチャイズの本部は、脱職人化や低投資といった魅力的な言葉を並べ、未経験者でもさも簡単に儲かるかのようなパッケージを提示します。しかし、商売の本質を知る経営者ならば、一度立ち止まって考えるべきです。もし本当にそれほど確実に儲かる仕組みがあるのなら、なぜ本部は他人に教え、権利を切り売りするのでしょうか。

本当に永続して高い利益を生む「打ち出の小槌」があるならば、本部は自ら融資を受け、すべて直営店として展開して利益を独占するのが経営の理屈です。あえて他人資本である加盟金を募り、リスクを分散させてまで拡大を急ぐのは、ブームが去る前に「初期費用」で逃げ切ろうとする、本部側のリスク回避の表れであることに気づかねばなりません。

私自身、アパレル店舗を複数展開してきた経験から、身に染みて感じていることがあります。店舗数を増やせば利益が積み上がるというのは、計算上の数字に過ぎず、現実はそれほど甘くありません。なぜなら、多店舗展開を支えるための最大の壁は、資金やシステムではなく、結局のところ「人」という問題に行き着くからです。

店舗を一つ増やすことは容易ですが、その店を経営者の分身として任せられる人材を育てるには、膨大な時間と労力が必要です。商売の核となるのは、単なるマニュアル作業ではありません。現場で商品のわずかな異変に気づき、接客の機微を捉え、店に深い執着心を持つ「オーナーシップ」を持った人間です。そうした人材は、一朝一夕には育ちません。

育成のスピードを無視して出店を強行すれば、組織は必ず内側から崩壊します。外部から経験者を中途採用すれば済むと考えるのは安易です。自社の哲学や魂を共有していない人材を現場に置いても、それは看板を貸しているだけの「異物の混入」に過ぎず、経営者の想いが現場に届くことはありません。人がいない拡大は、成功ではなくリスクの積み増しです。

本来、フランチャイズの強みは「どこでも同じ品質」という標準化にあるはずです。しかし、昨今の急拡大チェーンの多くは、その標準化すら不完全なまま他人資本で増殖しています。指導力不足の本部と、投資効率しか見ないオーナーが組めば、現場ではマニュアルの誤読や手抜きが横行します。結果、どこへ行っても同じ味ではなく、ブレがあってしかもマズい店が量産されます。

顧客は一度でも「マズい」「接客が悪い」という劣化コピーに触れれば、二度とその看板を信じることはありません。一つの店舗の不始末がブランド全体への不信感となり、ドミノ倒しのように全店が共倒れする。これが、工業製品にすらなりきれなかったチェーン店が辿る残酷なプロセスです。拡大がブランド価値を希薄化させ、自らの首を絞めるのです。

中小企業の経営が目指すべきは、看板の数を競う「虚業」の道ではありません。店舗を増やすたびに個性が薄まり品質が劣化していくのであれば、その拡大は「成長」ではなく「解体」と呼ぶべきでしょう。我々が守るべきは、特定の輸入食材や一時的な流行に依存した危うい仕組みではなく、地域に根差し、顧客と長期的な信頼を築ける「実業」の重みです。

他人資本を使い、猛スピードで崖に向かうような拡大路線を走る必要はありません。中小企業こそ、規模の拡大よりも「価値の蒸留」に心血を注ぐべきです。他社が容易に模倣できない、手触り感のある独自の価値を磨き続けること。それこそが流行に流されず、大手資本の波に飲み込まれないための、唯一にして最強の生存戦略なのです。

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