サイゼとスタバの共通点

日経MJがまとめた2026年3月の外食既存店売上高は、物価高による節約志向が鮮明になる中、明暗を分けました。中でもサイゼリヤは前年同月比15.5%増という驚異的な伸びを記録し、53カ月連続増収という圧倒的な強さを見せつけています。

他社が原材料高に苦しみ、安易な値上げや過度なキャンペーンに走る中、なぜサイゼリヤだけがこれほどまでに顧客の支持を集め続けられるのでしょうか。その答えは、単なる「メニューの安さ」という表面的な点(ドット)にあるのではなく、経営の裏側に潜む「線の戦略」にあります。

サイゼリヤの強さを語る上で外せないのが、スターバックスとの意外な共通点です。一方は低価格、一方は比較的高額なプライシングですが、両社はともに「直営主義」を軸とし、自社でサプライチェーンを深く構築しているという、経営の根幹で深く繋がっています。

日本には、仕組みをパッケージ化して展開する「安易なフランチャイズ(FC)」が溢れています。経営効率や拡大スピードを優先すれば、他者の資本で店舗を増やすFCは一見合理的です。しかし、そこには経営の「一貫性」を他者に委ねてしまうという、見えにくいリスクが潜んでいます。

経営学者、楠木建氏が説く『ストーリーとしての競争戦略』の肝は、個別の施策が一本の線として繋がり、全体で独自の価値を生むことにあります。FC化はこの「ストーリーの線」を分断しがちです。現場を預かる主体が「部分最適」に走った瞬間、本部の思想は濁り始めます。

例えば、サイゼリヤがFC展開を重視していたら、利益を優先したい現場の判断で「ミラノ風ドリア」は値上げされていたでしょう。同様にスタバがFC主導であれば、効率を重視するあまり「サードプレイス」の心地よさは損なわれていたかもしれません。

楠木氏は、優れた戦略には「一見して非合理」な要素が含まれると指摘します。サイゼリヤの低価格維持や、スタバの過剰なまでの人的投資・内装費は、短期的には非合理に見えます。しかし、これこそが他社が真似できない、ストーリーを完結させるための「結び目」となっています。

サイゼリヤはオーストラリアに自社拠点を持ち、農産物の種子から物流までを自社で設計しています。スタバも自社で豆を直接買い付け、焙煎まで行います。この「重たい」自前主義を貫くことが、外部環境の変化に左右されない独自のコスト構造と品質を支えているのです。

この一気通貫の体制があるからこそ、現場の「1秒を削る改善」が即座に全店へ波及し、そこで生まれた余裕をさらなる顧客価値へ再投資するループが回ります。この「自分たちで価値を完結させる」という覚悟が、不況期にこそ最強の盾として機能することになります。

多くの中小企業経営者が「現場は任せた」「商流は商社に任せた」と外部に委ねがちです。しかし、価値の源泉を他者に委ねた瞬間、自社のストーリーは脆くなります。サイゼリヤの躍進は、自分たちが提供する価値の隅々にまで責任を持つことの大切さを教えてくれます。

2026年、原油高や人件費高騰という外部要因は、全プレイヤーに等しく降りかかっています。その中で勝ち残るのは、自社の価値を「仕組み」で守っている企業です。直営店を通じて顧客の声を直接聞き、上流工程から自分たちの思想を込める。この一貫性こそが王道です。

安易な拡大よりも、ストーリーの完結性を優先する。サイゼリヤとスターバックスが価格帯を超えて示しているのは、経営者が「自分たちの提供する価値を、いかに自分たちの手で守り抜けているか」という問いに対する、徹底したプロ意識の現れに他なりません。

「自社のような規模では、自前の仕組みを築くのは難しい」と感じるかもしれません。しかし、学ぶべきは規模の大小ではありません。商流の無駄を一つ見直す、現場の動きを1秒速めるために経営自らが知恵を出す。その「自ら責任を持つ姿勢」が、経営の質を変えていきます。

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