コラムNo.285 認知的不協和の怖さ

 「1年前に予約し、やっと行けた有名店の商品やサービスがイマイチだった…」「健康のために長年飲んでいたサプリの効果がないことが実証された…」「苦労して希望の会社に入ったが、内情はブラックだった…」

 

 「認知的不協和」という言葉をご存じでしょうか。社会心理学で使われる言葉で、「自分の信念や認知と相反する事実があるときに生じる不快感やストレス」の事を指します。簡単に言えば、「まさかそんなはずは…」という心の状態です。

 

 この状態になった時、人は心のバランスを取るために当然解消を試みます。解消方法は二つ。一つ目は自分の信念や認知が間違っていたと認める方法。もう一つは事実をあるがままに受け入れず、都合よく解釈を変える方法。大半の人は事実の解釈を変える方を選びます。自分は間違っていない。自分は正しい。事実が間違っているのだ…。誰もこれまでの自分を否定したくないのです。

 

 冒頭の例で言えば、「1年前に予約し、やっと行けた有名店の商品やサービスがイマイチだった…」→「今日はたまたま忙しく、サービスが行き届いていなかったのだ。本当はもっと素晴らしい商品やサービスのはずだ。逆にあれだけ忙しくて、あのサービスは大したものだ。またこよう。」

 

 「健康のために長年飲んでいたサプリの効果がないことが実証された…」→「技術力不足でサプリの先進的な有効成分が検出されなかっただけだ。実際自分の体は調子がいい。皆が知らない有効成分があるのだ。自分だけ使っているのはもったいない。そうだ。知人にもすすめよう。」

 

 「苦労して希望の会社に入ったが、内情はブラックだった…」→「ブラックに見えるが、この状況が自分の成長を促進してくれているのだ。だから皆文句を言いながらも辞めないし、実際会社の売上も伸びている。やっぱりいい会社だ。私の判断は間違っていなかった。よし、後輩も誘ってみよう。」

 

 認知的不協和の怖いところは、自分自身がその状態であることに気づきづらい点です。つまり、「無意識のうちに」自分の信念を守り、事実に誤った解釈をつける。

 

 認知的不協和は社会的エリート、すなわち専門家や会社の幹部クラスなど社会の重要ポストについている人々が「自らの失敗を認めたがらない」ことの明確な理由も説明してくれます。

 

 「賢明な自分が間違うはずがない。そもそも間違ってはならない。間違っているのは事実やその解釈の方だ」 こうして世間のトップ層の多くは自分のミスを認めず、自己正当化を図ります。信念と事実のギャップがある場合、事実の方が歪められますが、その傾向は立場が上に行けば行くほど強く大きくなり、広範囲に影響を与えるのです。

 

 経営者であれば、過去の成功体験やさまざまな経営判断の積み重ねから、強い信念をお持ちでしょう。もちろん、それは重要である反面、行き過ぎると「あるべき自分」を守るために事実を歪め、誤った結論を導く可能性があります。

 

 これらを回避するためには、まず客観的事実を正確に把握することが大事です。その一番の方法は、「信頼できるデータを集め」「信頼できる人の話を聞く」ことです。さらにそこから「失敗を許容する」価値観を自分にも、周囲にも浸透させる必要があります。簡単に書きましたが、これらの実践には困難が伴い、長い時間もかかります。

 

 それでも経営者であれば、この誰しも陥りがちな「思考の癖」を知り、対策を打つべきです。最初の一歩は自分自身の「認知的不協和」という状態を理解することから始めましょう。

 

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