コラムNo.951 品質だけでは売れない

「良いものを作れば売れる」の落とし穴

「うちの商品は品質が良いから、いつかわかってもらえるはずだ」。中小企業の経営者や職人の方からよく聞く言葉です。しかし、もしあなたがそう考えているなら、少しだけ危険かもしれません。

なぜなら、人間の脳は「絶対的な品質」だけで物事の価値を判断しているわけではないからです。ここで、カリフォルニア工科大学で行われた、人間の脳と価格に関する非常に興味深い実験をご紹介しましょう。

脳は「情報」を味わうようにできている

被験者に「これは高級ワインだ」「これは安いワインだ」と事前に価格を教えた上で試飲してもらい、脳の反応を調べました。実際には用意されたワインは数種類しかなく、教えられた価格もデタラメでした。

しかし驚くべきことに、教えられた価格が高ければ高いほど、美味しいと感じる脳の部位が強く活動したのです。つまり人は舌だけで味わっているのではなく、「高い」という情報そのものを味わい快感を得ています。

これは人間の心理が浮わついているからではなく、脳がそもそもそのようにデザインされているのです。この脳科学の事実を前にして、「良いものを作れば、黙っていても伝わる」という考えは改める必要があります。

安易な値引きが危険な理由もここにあります。価格を下げると利益が減るだけでなく、お客様の「脳が感じる価値」そのものまで下げてしまうからです。では、中小企業は情報をどう扱うべきでしょうか。

「言わなきゃわからない」五感へのアプローチ

わかりやすいのが、町の片隅にあるパン屋さんの例です。どれだけ丹精込めて美味しいパンを焼き上げても、ただ黙って棚に並べているだけでは、その真価は決してお客様の脳には届きません。

「ただいま焼き上がりました!」という店員さんの活気ある声や、店内に漂う香ばしい匂い。こうした情報がセットになって初めて、お客様の脳は「これは価値が高い」と強く認識し、思わず手が伸びるのです。

つまり言わなきゃわからない。商品のこだわり、産地、生産者の思い、パッケージの手触り。これらを五感を通じて意図的に伝えなければ、お客様の脳の中には存在しないのと同じことになってしまいます。

五感を総動員して「期待値」をコントロールすること。それは大企業のような莫大な広告費がなくても、目の前のお客様に語りかけることで今日から実践できる、最も強力で身近な戦略だと言えます。

ブランディングするな、ブランデッドを目指せ

「ブランド」と聞くと、多くの人が誰もが知るグローバル企業や高級品ばかりを思い浮かべ、自社には無縁だと線を引いてしまいます。しかし、それは大きな誤解です。規模の大小は全く関係ありません。

一橋大学の楠木建氏が指摘するように、ブランドとは広告やロゴで作為的に作るもの(Branding:現在進行形)ではありません。日々の商いによって事後的に出来上がる状態(Branded:過去分詞形)です。

「焼きたてです」という言葉(情報)を伝え、期待通りの美味しいパン(体験)を提供する。この「言っていること」と「実際の価値」が一致するプロセスを何度も何度も繰り返していくことが極めて重要です。

ブランドとは情報の積み重ねであり、信頼である

この誠実な情報の積み重ねがお客様の脳にしっかりと定着したとき、それは「あの店なら間違いない」という強固な「信頼」へと変わります。ブランドとは、要するにこの「信頼」の蓄積に他なりません。

お客様は決して、ロゴマークや表面的なデザインだけであなたのお店を選んでいるわけではありません。五感を通じて受け取った心地よい情報と、それが裏切られなかったという確かな記憶を信じて来店するのです。

多くの人が知る高級ブランドだけがブランドではありません。町の片隅にある小さなお店でも、立派なブランドになれるのです。自社の真の価値を五感に乗せて伝え、信頼を積み重ねる商いを今日から始めましょう。

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