ニュースの論点No.890 初売りはいつ?

「大手デパート 来年の初売りを13日にする動き相次ぐ」2025924日、NHKニュースはこう題した記事を掲載しました。

 

記事の通り、大手百貨店の多くが来年の初売りを13日からとします。かつては元旦営業が当たり前となり、2日の初売りが百貨店の慣習でした。お年玉を握りしめた子どもから、福袋を求めて並ぶ大人まで、多くの人でにぎわった光景を覚えている方も多いでしょう。ところが今、その前提が大きく変わろうとしています。

 

背景にはまず人手不足があります。「開けたくても人がいない」。販売職の担い手が減り、年末年始にシフトを埋めることが難しくなりました。

 

さらに顧客の高齢化も進み、かつて人を呼び込んだ福袋やセールの魅力は薄れています。中身が事前に公開される福袋や、ネット上で価格比較が当たり前になったセールでは、かつてのような熱狂を生み出せません。

 

消費者の正月の過ごし方も多様化し、外出しても百貨店に行く必然性がなくなったのです。

 

私自身、アパレル業界で百貨店、ファッションビル、路面店と現場を経験してきました。その目から見ても、最近の百貨店の閑散ぶりは目を覆うものがあります。華やかだった売り場は影を落とし、百貨店自体の数も減り続けています。

 

オンラインショッピングは生活の一部になり、ファストファッションも日常化しました。消費者の選択肢が広がる一方で、個性的な店は減り、大型商業施設にはどこも同じような店舗が並ぶ。ニーズが多様化しているにもかかわらず、供給側は均一化するという不思議な現象が進んでいます。

 

ここで注目したいのは、初売りを3日にする動きが「昔に戻った」のではないということです。日本社会の成熟化や高齢化、インバウンド需要の拡大といった社会構造の変化を踏まえた「戦略的な撤退」だと捉えるべきでしょう。

 

成長産業であれば多少無理をしてでも開店し、売上を追いかける意味があります。しかし縮小産業に入った百貨店では、無理に開けることがリスクになります。だからこそ「何をやめるか」「どこで線を引くか」という選択が、いま戦略として浮上しているのです。

 

これは中小企業にとっても他人事ではありません。事業にはライフサイクルがあります。成長、成熟、そして縮小へと移り変わる中で、経営者に求められる判断は変わります。ときには「やめる勇気」「慣習を壊す決断」こそが生き残りの条件になります。

 

皆が同じことをしていた時代は終わりました。むしろ横並びが強まるなかで、「うちならではの特徴」が際立つ時代に入っているのです。

 

消費者のニーズは多様化しています。しかし供給側は均一化しており、個性的な小規模店は次々に姿を消しています。このギャップこそ、中小企業にとってのチャンスです。大企業やチェーンが横並びで動くなか、自社の独自性を磨くことで、「選ばれる理由」を強めることができます。

 

経営の現場では「気づいたらそうなっていた」という変化が少なくありません。元旦営業が常識化したのも、気づけばそうなっていたこと。そして今また、気づけば「13日開店」へと業界が動いています。だからこそ、「仕方なく変える」のではなく、「先手を打って変える」姿勢が経営者には求められます。

 

百貨店の初売り3日化は、衰退産業の話であると同時に、私たち中小企業が直面する現実を映す鏡です。慣習に流されるのではなく、自社にとっての最適解を見出し、時代の要請に応じて先手を打つこと。それが持続を可能にする戦略なのです。

 

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