ニュースの論点No.772 値上げの前に

 「最低賃金アップの波 『価格転嫁できない』中小企業はどうなる?」202486日、ITmediaビジネスONLINEはこう題した記事を掲載しました。記事によれば「厚生労働省の中央最低賃金審査会は725日、最低賃金を全国平均で時給50円増とすることを決めた」としています。

 

 最低賃金の目安は都道府県ごとの経済実態に応じてA~Dの4ランクで分けられていましたが、今年度は一律50円の引き上げ額が提示されました。ちなみに目安の引き上げ額は1978年の制度開始以来、過去最高となります。

 

 記事では熊本県を例に挙げ、台湾のTSMCの半導体工場がある同県の最低賃金は898円の一方で、TSMC関連企業の資材管理アルバイトが時給1900円、食堂の調理補助が1300以上と言われており、今後は隣県を巻き込んで目安以上の引き上げになるのではないかと推測されています。

 

 最低賃金はあくまで最低限の目安であり、無理やりこのラインに合わせる必要はありません。資金が潤沢にある企業は自社の従業員に対して、適正かつ納得のいく金額で応えるべきだと思います。

 

 一方で、小規模なビジネスの経営者は引き上げ額の大きさが死活問題になっていると予想されます。特にアルバイトで成り立つような店舗型ビジネスでは、最低賃金に近い額の時給で雇用している場合も少なくなく、資金繰りが一気に悪化し、経営難に陥ることが懸念されます。

 

 他方、今はどの業界も人手不足です。最低賃金うんぬんの話よりも賃上げ圧力としてはこちらの方が断然強い。最賃で求人広告を出しても今はほとんど応募がありません。応募があっても面談に来ないなどは日常茶飯事です。

 

 いずれにしても、時給の高い仕事に応募者は集まりやすい。最低賃金レベルの時給ではそもそも人が集まらない。アルバイトが数名いないと回らないような低単価の店舗が最も影響を受けているでしょう。

 

 大手により徹底的に標準化、省力化された最低限の人しか介さない店舗、もしくは一人や二人で細々と切り盛りする店舗“以外”は人手不足の魔の手が一気に忍び寄ります。もちろん、全業種・業態で影響は避けられませんが、「中途半端」な業態は早々に淘汰されます。

 

 どうすればいいか。記事タイトルにもあったように、価格転嫁、つまり値上げは必須事項です。企業の儲けの源泉は「粗利」です。売上ではありません。人件費や他の固定費を賄い、借入金を返済し、手元資金を残すための粗利が必要なのです。

 

 粗利を伸ばすには単純に売上を伸ばす方法もありますが、粗利率の改善こそが必要な視点です。そして粗利率の改善には「値上げ」が最も有効です。

 

 ただ、値上げは心理的な負担が大きく、なかなか踏み切れない経営者も多く存在します。確かに、顧客離れなど不安材料も多く、何から手をつければいいのかわからない。

 

 そもそもの話、何もわからないまま値上げするのは危険です。最低でも自社の収支構造を把握する。売上、変動費(原価)、粗利、固定費(人件費、その他)、営業利益。まずはこれらを知ることで「見えない不安」から解消されます。

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