
先日、熊本城ホールで開催されたYOASOBIのライブに足を運びました。
音楽ファンとしてはもちろん楽しみにしていたのですが、経営者として会場を訪れてみると、思いがけず大きな気づきがありました。
それは、あの圧倒的な人気と実力を持つYOASOBIが、ライブ会場でも「売る」という行為をとても真剣に、そして丁寧に行っていたということです。
会場ロビーや近隣のイベント会場ではグッズ販売ブースが大盛況。開演前も終演後も長蛇の列ができていました。Tシャツやタオル、パンフレットに加え、熊本限定のデザインアイテムまでそろえていて、ファン心理をよく理解した商品展開がなされていました。
そして驚いたのは、ライブ後にアーティスト自ら熱っぽくグッズを紹介していたことです。「デザインで相当もめたけど、飛行機で移動中に何とか決まった」とまるで製作スタッフの一員のような口ぶりで、自ら商品の魅力を伝えていたのです。
YOASOBIほどの人気グループであれば、何を出しても売れる状況かもしれません。でも彼らは、そういう“売れて当たり前”の状態に甘えず、もっと伝える、もっと売るための工夫を欠かさない。その姿勢に、私は正直、感動すら覚えました。
翻って、私の経営者としての悪い癖で、熊本ライブでの収支構造がどうなっているか、つい頭の中で計算してしまいました。
熊本城ホールのメインホールは約2,300席。今回の公演は4日間で、すべて満席でした。チケットは1枚8,800円ですので、チケット収入は単純計算で約8,100万円になります。
さらに、グッズの平均購入額を来場者1人あたり4,000円と見積もれば、グッズの売上は約3,680万円。つまり、公演4日間での総収入は、およそ1億1,800万円になると推測できます。
では、支出はどれくらいかかっているのでしょうか。
まず、会場の使用料です。熊本城ホールは1日あたり約40万円と公表されており、仕込みやリハーサル、撤収も含めて7日間借りるとすると約280万円。次に、照明・音響・映像・舞台設営といった機材や制作費。これらはツアー用の大掛かりな設備が含まれていると見て、少なくとも700万円前後はかかっているでしょう。
人件費も忘れてはいけません。舞台スタッフ、音響照明のオペレーター、運営チーム、物販スタッフなどを含め、1日100万前後が必要だとすれば、4日間で400万円以上。さらに、全国的な告知のための広告費やSNS運用のための制作費などを含めると、広告関連には500万円近くが費やされていると考えられます。
チケット販売にはプレイガイドなどの手数料も発生します。これは売上の約10%と仮定すれば800万円程度。さらに、グッズの制作原価もあります。Tシャツや雑貨は原価率が高めで、売上の約40%が製造費にあたります。となると、グッズの原価は1,500万円前後です。
加えて、全国ツアーでの地方公演となれば、出演者やスタッフの宿泊・交通費も発生します。これらをまとめて400万円ほど見積もっておきましょう。
こうして合計していくと、支出総額は約4,800万円と見られます。
収入が約1億1,800万円、支出が約4,800万円。ざっくりではありますが、差し引き7,000万円の利益が見込めるという構造です。
もちろん、この利益はすべてがアーティスト個人に入るわけではありません。レーベル、制作会社、ツアースタッフなど関係各所に分配されますが、それでも極めて健全なビジネスモデルだと感じます。
何よりも印象的だったのは、「売れていても、なお売る」という姿勢です。どこかの企業が言いそうな「うちはクオリティで勝負してるんで、ゴリゴリ売り込むのはちょっと…」というようなスタンスとは、真逆。YOASOBIは、「届けたい」「買ってもらいたい」という純粋な気持ちと、「きちんと売り切る」ことへのプロ意識を両立させていました。
この姿勢、中小企業にも絶対に必要だと思います。いいものをつくるだけではなく、どうやって買ってもらうかに頭を使う。お客さまに声をかけ、手に取ってもらう機会を増やす。買ってほしい気持ちを、遠慮せず表現する。そのすべてが、ビジネスを成立させる“最後の一押し”になるのです。
YOASOBIのライブは、音楽だけでなく、商売の本質を改めて教えてくれる場でもありました。売れている人ほど、売ることをやめない。その姿を目の当たりにして、私も、もっと真剣に「売る」ことに向き合わなければと痛感しました。

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