
「「給与はそのまま」企業は4割超 最低賃金1121円への対応実態」2025年10月18日、ITmediaビジネスONLINEはこう題した記事を掲載しました。
厚生労働省が発表した2025年度の最低賃金は、全国平均で1121円。前年度から66円の引き上げです。東京商工リサーチが全国6280社に行った調査では、「給与を変更しない」と答えた企業が43%にのぼりました。「引き上げる」と答えた企業を上回り、多くの企業が様子を見守っている現状がうかがえます。
表面上は数字の話に見えますが、現場ではそう単純なことではありません。企業は粗利から人件費を賄います。人件費が上がれば、必要な粗利も増え、結果として売上目標も高くなります。
売上を上げるには、客数・客単価・購買頻度のいずれかを増やすしかありませんが、人口減少が進む中で客数を増やすのは簡単ではありません。購買頻度を上げるのも限界があり、最終的には単価を上げるしかなくなります。
しかし、価格を上げれば顧客が離れ、上げなければ利益が削られる。どちらを選んでも苦しく、企業は袋小路に追い込まれています。特に人手に頼るサービス業や地域の小規模事業者ほど、その板挟みは深刻です。
最近では「AIやDXで生産性を上げればいい」といった声をよく聞きます。私自身、生産性向上や効率化には賛成です。ただしそれは、現場の実態を理解したうえでの話です。何も知らない外部の人が訳知り顔で「効率化が必要だ」と口にするのを聞くたびに、強い違和感を覚えます。
そこにあるのは、経営者や従業員の努力を想像することのない、机上の空論です。AIやDXは手段であって目的ではありません。使う側に思想や判断がなければ、ただの使えないツールです
中小企業では、人の手や感性の積み重ねがそのまま価値になります。それを「非効率」と切り捨ててしまえば、地域の文化や顧客とのつながりまで失われてしまいます。政治や行政の人ほど現場を知らず、「支援」と言いながら実態から乖離した政策を打ち出しているようにも見えます。
そもそも、いまある状態は偶然できあがったものではなく、これまでの社会全体の選択が積み重なって生まれたものです。政治的な判断の影響はあったとしても、長い時間軸で見れば、なるべくしてなっている。
つまり、今の日本の経済構造には、それなりの合理性があるのです。問題は、それを短期間で反転させようとすることです。歴史を振り返れば、急激な改革ほど失敗する可能性が高い。制度も人の意識も、政策よりはるかにゆっくりしか変わりません。
最低賃金の引き上げもAIによる改革も、焦るほど現場との乖離が広がっていくように思います。生き残る企業とそうでない企業が生まれるのは、ある意味で自然な流れです。ただ、それを単純な淘汰として片づけてしまうのは危険です。
現場には、数字では測れない価値や努力が積み重なっています。急激な変化のなかで、何を守り、何を変えていくのか。
答えはまだ見えていませんが、誰かを切り捨てる議論ではなく、これから何を積み重ねていくのかを一人ひとりが考える時期に来ているのだと思います。

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