
経営は登山に似ています。目的地を定め、ルートを描き、装備を整え、一歩を踏み出す。天候が変わることもあれば、思わぬ障害に出くわすこともある。体力も判断力も試されるという点で、両者は驚くほどよく似ています。
普通に歩いていたら、いつの間にか富士山の山頂だった…。そんな人はいないでしょう。経営も同じです。偶然の成功はあっても、山頂に立つ人は必ず準備と計画を重ねています。
計画を立てること自体に成功の保証はありません。しかし、計画を持たずに成功した経営者はいない。この点、多くの人は創業時に事業計画をつくりますが、融資や補助金のための“書類”で終わっていることが多いようです。登る意思のない山の登山計画を立てているのと同じです。
金融機関もまた、形だけの調査で計画の中身を精査することなく「とりあえず登ってみましょう」と背中を押してしまう。結果として、1年もたたずに資金が尽き、リスケを余儀なくされる事業者も少なくありません。事実、創業して三年以内に廃業する事業者も珍しくない。
中小企業白書によると、廃業企業には共通点があります。経験が浅く、資金が乏しく、準備期間が短い。新しい事業に挑む一方で、リスクの見通しが甘く、特に飲食業や小売業のように初期投資が軽い業種では油断が生まれやすい傾向があります。
私の実感としても、行き当たりばったりの経営が目立ちます。経験もお金も十分でないまま、勢いだけでスタートしてしまう。兼業で中途半端な働き方をしているケースも少なくありません。熱意はあるものの、勢いだけでは長く歩けない。計画が甘いのではなく、計画そのものがない。あるいは、資金調達用の形だけの計画にすぎない。
事業計画は本来、他人に見せるためではなく、自社の未来を描くためにつくるものです。融資や補助金に提出する計画書は、その根にある“自分たちの計画”があってこそ意味を持ちます。計画とは、資金を得るための道具ではなく、進む方向を示す羅針盤です。
一方で、事業計画の実現性を高めるには、他者の視点も欠かせません。考えを外に出すことで、思いが整理され、新たな支援や助言が得られます。登山でいえば、ルートを仲間と共有し、危険箇所を教えてもらうようなもの。
計画を見せることは弱みではなく、登頂を確実にするための知恵です。事業計画は未来を予測するためのものではなく、未来を形づくるための道標です。山道を歩くように、進みながら見直し、立ち止まりながら更新していく。計画は一度つくって終わりではなく、歩みの中で磨かれていくものです。
そして、最も大切なのは「策定のプロセス」です。数字や文章を整えることよりも、なぜこの山に登るのか、何を得たいのかを自らに問い直す。その時間こそが、経営者にとって最大の学びになります。
計画とは、思考を深めるための道具であり、自らの意思を確かめるための鏡でもある。あなたはその「大事な時間」を意図的に取っていますか?

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