
先日ご支援した食品加工会社で、新規事業として飲食店の開業を検討しているケースがありました。近隣ではインバウンドや観光客が増え、地域の飲食店は2店舗のみ。席が足りず、お客様を断る日もあるそうで、一見すると十分な需要があるように見えます。
そこで同社は、本社横の土地に新しい店舗を建て、まずはランチ営業から始める構想を描いていました。しかし、メニューの内容や単価、来店予測などを基に収支シミュレーションを行うと、想定よりも厳しい数字。
この結果を踏まえ、私はまず「小さく試す」方法を提案しました。幸い、近隣の飲食店が時間貸しに応じてくれるとのことで、チャレンジショップとして短期間だけ営業し、実際の反応を確かめることができます。いわゆるテストマーケティングです。
ところが、この“まず小さく試す”という発想は、多くの経営者にとっては意外と馴染みがありません。「やるなら最初から全て揃えて」「形を整えてから始めたい」という考え方が根強いからです。ゼロかイチかで判断してしまい、初期投資が膨らみ、本業まで圧迫するリスクを抱えてしまいます。
しかし、最初から全て揃えて始める方法は、一見すると大胆な挑戦に見えて、実際には柔軟に対応できません。最初に形を固めてしまうほど、方向転換の余地がなくなり、本来必要だった工夫や独自性が入り込む余白がなくなるためです。
その点、小さく始める方法は、規模としては控えめに見えても、実はより大胆で創造的な挑戦を可能にします。小さく始めれば、お客様の反応を見ながら柔軟に形を変え、改善し、磨き上げることができます。その過程で、その会社ならではの強みが育ち、“他にない事業”へと成長する可能性が生まれます。
そして、この“検証しながら進む”という方針を成立させるうえで欠かせないのが、あらかじめ撤退基準を決めておくことです。どの時点で、どの成果が得られなければ撤退するのか。基準があることで感情に流されず、冷静に判断できます。やめ方を決めておくことは、挑戦を妨げるどころか、挑戦のリスクを適切にコントロールする仕組みです。
ここで思い出されるのが、著作家の山口周さんが紹介している「パラシュート」の話です。航空機の技術が20世紀に急速に進歩した背景には、パラシュートの普及があります。
パイロットが「最悪の場合は脱出できる」という逃げ道を手にしたことで、エンジニアは大胆な設計に挑戦でき、テストパイロットも高リスクの飛行に臨むことができました。逃げ道があるからこそ、技術は飛躍的に進化したのです。
この“逃げ道があるから挑戦できる”という構造は、経営に限らず、組織づくりにも当てはまります。失敗すると挽回がきかない環境では、人は新しいことに挑戦できません。
その典型が、官僚的な組織です。
失敗が即「減点」になり、キャリアに影響するため、誰も前例から外れようとしません。
リスクを取れない環境からは、イノベーションも新規事業も生まれません。
そしてこの構造は、民間企業の新規事業にもそのまま当てはまります。
逃げ道をつくることは、弱さではありません。挑戦を支える前提条件です。
パラシュートを持っている人ほど、そして持とうとする会社ほど、大胆に前へ進むことができます。あなたの会社には挑戦を後押しする「パラシュート」が用意されているでしょうか。

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