コラムNo.909 あなたの会社に逃げ道はあるか

先日ご支援した食品加工会社で、新規事業として飲食店の開業を検討しているケースがありました。近隣ではインバウンドや観光客が増え、地域の飲食店は2店舗のみ。席が足りず、お客様を断る日もあるそうで、一見すると十分な需要があるように見えます。

 

そこで同社は、本社横の土地に新しい店舗を建て、まずはランチ営業から始める構想を描いていました。しかし、メニューの内容や単価、来店予測などを基に収支シミュレーションを行うと、想定よりも厳しい数字。

 

この結果を踏まえ、私はまず「小さく試す」方法を提案しました。幸い、近隣の飲食店が時間貸しに応じてくれるとのことで、チャレンジショップとして短期間だけ営業し、実際の反応を確かめることができます。いわゆるテストマーケティングです。

 

ところが、このまず小さく試すという発想は、多くの経営者にとっては意外と馴染みがありません。「やるなら最初から全て揃えて」「形を整えてから始めたい」という考え方が根強いからです。ゼロかイチかで判断してしまい、初期投資が膨らみ、本業まで圧迫するリスクを抱えてしまいます。

 

しかし、最初から全て揃えて始める方法は、一見すると大胆な挑戦に見えて、実際には柔軟に対応できません。最初に形を固めてしまうほど、方向転換の余地がなくなり、本来必要だった工夫や独自性が入り込む余白がなくなるためです。

 

その点、小さく始める方法は、規模としては控えめに見えても、実はより大胆で創造的な挑戦を可能にします。小さく始めれば、お客様の反応を見ながら柔軟に形を変え、改善し、磨き上げることができます。その過程で、その会社ならではの強みが育ち、他にない事業へと成長する可能性が生まれます。

 

そして、この検証しながら進むという方針を成立させるうえで欠かせないのが、あらかじめ撤退基準を決めておくことです。どの時点で、どの成果が得られなければ撤退するのか。基準があることで感情に流されず、冷静に判断できます。やめ方を決めておくことは、挑戦を妨げるどころか、挑戦のリスクを適切にコントロールする仕組みです。

 

ここで思い出されるのが、著作家の山口周さんが紹介している「パラシュート」の話です。航空機の技術が20世紀に急速に進歩した背景には、パラシュートの普及があります。

 

パイロットが「最悪の場合は脱出できる」という逃げ道を手にしたことで、エンジニアは大胆な設計に挑戦でき、テストパイロットも高リスクの飛行に臨むことができました。逃げ道があるからこそ、技術は飛躍的に進化したのです。

 

この逃げ道があるから挑戦できるという構造は、経営に限らず、組織づくりにも当てはまります。失敗すると挽回がきかない環境では、人は新しいことに挑戦できません。

 

その典型が、官僚的な組織です。
失敗が即「減点」になり、キャリアに影響するため、誰も前例から外れようとしません。
リスクを取れない環境からは、イノベーションも新規事業も生まれません。

 

そしてこの構造は、民間企業の新規事業にもそのまま当てはまります。

逃げ道をつくることは、弱さではありません。挑戦を支える前提条件です。
パラシュートを持っている人ほど、そして持とうとする会社ほど、大胆に前へ進むことができます。あなたの会社には挑戦を後押しする「パラシュート」が用意されているでしょうか。

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