ある飲食店で、新メニューを販売するためのチラシづくりを支援しました。
写真を大きく載せ、商品名と価格を表示する。販促物としては、それだけでも形になります。しかし、話を聞いていくと、重要なことがほとんど表に出ていないことが分かりました。
店では、食材をその都度仕入れ、素材の状態に応じて切り方や火の入れ方を変えていました。味を左右する調味料も、店主が料理との相性を考えて選んでいます。さらに、よりおいしく味わってもらうために、店主なりのおすすめの食べ方もありました。
ところが、こうした工夫は、顧客からはほとんど見えません。
顧客が見ることができるのは、完成した料理と価格だけです。厨房で何を選び、何を見極め、どのように手を加えたのかは、店が伝えなければ分かりません。
ここに、飲食店の販売促進の難しさがあります。
店側は、手間をかければ価値が高まると考えます。しかし、顧客は、その手間を自動的に評価できるわけではありません。見えない価値は、存在していても、顧客の判断材料にはならないのです。
だからといって、「こだわりの食材」「丁寧な仕事」「職人の技」と書けばよいわけでもありません。こうした言葉は抽象的で、他店でも使われています。何よりよくわからない。
必要なのは、評価を押しつけることではなく、事実を見せることです。
毎回食材を仕入れていること。素材に応じて処理を変えていること。料理に合う調味料を選んでいること。
こうした具体的な事実があって初めて、顧客は価格の背景を理解できます。
言い換えれば、販売促進とは、商品の良さを誇張することではありません。顧客には見えない仕事を、判断できる情報に変換することです。
そして今回、特に重要だと感じたのは、おすすめの食べ方を伝えるという発想でした。
一般に、店は料理を提供した時点で商品が完成したと考えがちです。しかし、顧客がどのように食べるかによって、感じる味や満足度は変わります。
最初は素材をそのまま味わう。途中で調味料を加える。食感や味の変化を順番に楽しむ。店主が意図した味わい方を伝えることで、顧客は料理の価値をより受け取りやすくなります。
これは、食べ方を指示するということではありません。価値の受け取り方を案内するということです。
どれほど良い料理でも、楽しみ方が分からなければ、価値の一部しか伝わらないことがあります。反対に、簡単な説明があるだけで、顧客の理解や記憶は大きく変わります。
この考え方は、飲食店以外にも当てはまります。
商品を売るだけでなく、どのように使えばよいのか。サービスを提供するだけでなく、どのように利用すれば成果につながるのか。顧客が価値を実感するところまで設計して、初めて商品は完成します。
価格についても同様です。
価格を上げる際、原材料費や人件費の上昇だけを説明しても、顧客にとっては店側の事情にすぎません。重要なのは、その価格でどのような価値が得られるのかを理解してもらうことです。
ただし、価格に納得してもらうために、説明を増やしすぎるのも逆効果です。チラシに多くの情報を載せれば、最も伝えたいことが埋もれます。
何を見せ、何を伝え、何を省くのか。販売促進では、情報を足す力と同じくらい、情報を選ぶ力が問われます。
経営者や店主は、自分たちが日々行っている仕事を過小評価しがちです。一方で、その仕事を説明さえすれば価値が伝わると考えるのも危険です。
大切なのは、自社の内側にある工夫を、顧客が理解し、選び、体験できる形に変えることです。
良い商品をつくることと、良い商品だと伝わることは別の仕事です。
そして、顧客がその価値を実際に受け取るところまで考えることが、本当の商品設計なのだと思います。

