「サイゼリヤ、約6年ぶり「値上げ検討」か 株価も急騰」2026年7月21日、ITmediaビジネスオンラインはこう題した記事を掲載しました。
現時点では値上げが正式に決まったわけではなく、2026年9月以降の価格改定を視野に入れているという段階です。それでも、ミラノ風ドリア300円、グラスワイン100円といった価格を長く維持してきたサイゼリヤだけに、大きな注目を集めました。
サイゼリヤは、コロナ禍で一時的に赤字へ転落したものの、その後は業績を大きく回復させています。2025年8月期の売上高は2,500億円を超え、純利益も過去最高水準となりました。国内だけでなく、アジアを中心とした海外事業の成長も業績を支えています。
そのような好業績の中で、なぜ値上げを検討するのでしょうか。
サイゼリヤの低価格は、利益を削って無理に実現してきたものではありません。原材料の調達から加工、物流、店舗での提供までを一体的に設計し、店舗作業を標準化することで、低価格でも利益を確保できる仕組みを構築してきました。
また、定番商品を大量に販売し、前菜や主食、デザート、ワインなどを組み合わせてもらうことで、客数と注文点数を増やしてきました。安いから強いのではなく、安く提供できる事業構造があるから強いのです。
しかし、日本ではインフレが続いています。原材料費、人件費、物流費、光熱費などが上昇する中で価格を据え置くことは、実質的には値下げを続けることでもあります。
物価が上がっているのに販売価格を変えなければ、企業がその上昇分を負担することになります。サイゼリヤほどの規模と仕組みを持つ企業であっても、価格改定を検討する段階に来ているということです。
一方、中小企業の経営者と話していると、「今の価格からは絶対に上げられない」と言われることがあります。
しかし、その価格をなぜ設定したのか尋ねると、意外なほど明確な根拠がありません。以前からその価格だった、競合と同程度にした、顧客から高いと思われない金額にした、といった理由で決まっている場合も多いのです。
経営者は、値上げによる客離れやクレームといった「値上げすることの損失」には敏感です。しかし、利益の減少、賃上げの停滞、設備更新の先送り、品質の低下、経営者や従業員の疲弊といった「値上げしないことによる損失」は見落としがちです。
値上げをしないことが、必ずしも顧客への貢献になるわけではありません。無理な価格を維持した結果、品質が低下したり、事業そのものが続けられなくなったりすれば、最終的に困るのは顧客です。
もちろん、値上げをすれば一定の客離れが起きる可能性はあります。だからこそ、値上げするかしないかを感覚で決めるのではなく、それぞれの場合に何を失うのかを比較する必要があります。
中小企業がサイゼリヤの低価格戦略をそのまま真似することは難しいでしょう。しかし、自社の価格にどのような根拠と意味があるのかを考えることはできます。
その価格で誰に何を提供するのか。必要な利益を確保できるのか。品質や雇用を維持し、事業を継続できるのか。
価格の根拠が明確であれば、価格改定を必要以上に恐れる必要はありません。
値上げは、申し訳ないと謝ることではありません。顧客への配慮を持ちながら、その理由と、これからも守り続ける価値を説明する経営判断なのです。

