経営者の方々と話していると、他社のことは、驚くほどよく見えているものだと感じます。「あの店は、あれだけ立地がいいのに、売り方がもったいない」「あの会社は、いい商品なのに、伝え方が下手だ」。的確です。ほとんどその通りだと思います。
ところが不思議なことに、その鋭い目が、自分の会社に向いた途端、ぱたりと働かなくなることがあります。他人の会社の歪みはあれほど見えるのに、自分の会社の同じ歪みには、なぜか気づけない。まさに、灯台下暗しです。
わかりやすい例があります。広告代理店なのに自社の広告ができていない。人の会社の販促は見事に手がけるのに、自分の会社の宣伝は後回し。というかうまくできない。笑い話のようですが、これは特別な話ではありません。
紺屋の白袴、医者の不養生。プロであればあるほど、自分自身にだけは、その腕を使えていない。会計事務所の資金繰りが苦しかったり、人事コンサルの会社が離職に悩んでいたり。あちこちで見かける光景です。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
答えは単純です。自分の会社は、近すぎて見えないのです。毎日その中にいて、すべてが当たり前になりすぎて、前提そのものを疑えなくなる。外から見れば一目でわかる歪みが、中にいる本人には、空気のように透明になってしまう。
近さは理解を促進しますが、同時に見えにくくなる原因でもあるのです。他人の会社が見えるのは、あなたが優秀だからというより、単に、遠くにいるからです。
これは支援する側も、まったく例外ではありません。私自身、多くの会社の理念や計画づくりをお手伝いしながら、自分の会社の理念は、長いあいだ言葉になっていませんでした。人の事業計画は作れるのに、自分の事業計画はない時期がありました。他人の足元は照らせるのに自分の足元は暗いまま。偉そうなことは何も言えません。
ここに一つの厄介な事実があります。自分の足元は、自分の力では照らしにくい。 どれほど優秀な外科医でも、自分の手術は自分でしません。腕がないからではなく、自分で自分は執刀できない、という構造だからです。
経営も同じで、自社を正しく見るには、たいてい外の目が要ります。近すぎて見えなくなったものを、一度、遠くから見てくれる誰かの目が必要なのです。
これは、コンサルタントを雇いなさい、という話ではありません。相手は、信頼できる同業の経営者でも、古い友人でも、正直にものを言ってくれる社員でも構いません。
大事なのは、自分の会社を当たり前だと思わずに見てくれること、そして外の視点を意識して持つことです。放っておくと、私たちは全員、自分の足元だけが見えなくなる。
一度、立ち止まって考えてみてください。あなたが今、いちばん的確に問題を指摘できるのは、どこの会社でしょうか。そして、その目で自分の会社を最後に見たのはいつでしょうか。
他人の袴を、見事に染めているあなたの袴は、いま、真っ白の状態になっているかもしれません。

