コラムNo.979 情報は命

このたびの地震で被害を受けられた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

今も避難生活を続けている方や、片付けや復旧に追われている方がいます。直接の被害は小さくても、仕事や暮らしへの影響が続いている方も少なくないと思います。

災害の直後は、人命の救助と安全の確保が最優先です。その一方で日がたつにつれて、目に見える被害とは別の問題も広がっていきます。

宿泊や飲食などのキャンセルも、その一つです。

今回の地震では、大きな被害が確認されていない南阿蘇村の温泉旅館でも予約の約5割がキャンセルとなり、数千万円の損失が見込まれています。鹿児島市のホテルでは発生後3日間で約600人分、月間宿泊者数の約5%に当たるキャンセルが出ました。霧島市のホテルでも、高速道路の通行止めなどを理由に約50件が取り消されています。

地震の被害は、強く揺れた場所だけにとどまりません。

宿泊客が減れば、飲食店や交通事業者にも影響します。土産物店や食材の納入業者まで含めれば、地域経済への影響はさらに広がります。

ちなみに2016年の熊本地震でも、ゴールデンウイークまでに九州で70万件を超える宿泊キャンセルが発生しました。九州経済調査協会は、その後の宿泊者数が前年同期より約230万人減り、九州域外からの旅行者による観光消費が最大360億円減少すると推計しています。

ただし、予約を取り消す人を責めても問題は解決しません。

現地の事業者は、自社の建物や周辺の道路がどうなっているかを知っています。しかし、離れた場所にいる顧客が得られるのは、広い地域を一括りにしたニュースや被害の大きな映像です。

そこには情報の差があります。

余震が続く可能性もあり、今後のことは誰にも断言できません。情報が限られる中で、旅行や会食を見送るのは無理のない判断でもあります。

さらに災害時には、安全とは別のためらいが生まれます。

被災している人がいる中で、旅行や食事を楽しんでよいのか。現地が大変な時に訪れれば、迷惑をかけるのではないか。

SNSに写真を載せれば「こんな時に」と批判されるかもしれません。実際に批判する人が少なくても、その可能性を考えるだけで行動を控える人はいます。

人が知りたいのは、危険かどうかだけではありません。今その地域を訪れることが、現地にとって迷惑ではないかという情報も必要です。

そこで大切になるのが、地域や事業者から事実を伝えることです。

「安全です」と繰り返すだけでは、十分な情報にはなりません。建物や設備にどのような影響があり、安全確認はどこまで終わっているのか。道路や交通機関は使えるのか、営業内容に変更はあるのか。

確認できたことと、まだ分からないことを分けて伝える必要があります。

実際に熊本市内のホテルでは、館内外の安全を確認して営業を続けながら、被災したリネン工場や食材配送の遅れによる一部サービスへの影響も公表しています。営業できるかできないかの二択ではなく、現在の状況を具体的に示した発信です。

被害の大きな地域では、来訪を控えてほしいと伝える必要があります。一方で受け入れが可能な地域は、通常どおり利用できることを示すことで、顧客が自分で判断しやすくなります。

もちろん、被災した事業者が発信まで一人で背負う必要はありません。安全確認や復旧に追われる中では、文章を考える余裕がないことも当然です。

行政や観光団体だけでなく、地域の人や取引先が情報を補うことにも意味があります。若い人やインフルエンサーなど、伝える力を持つ人に協力してもらう方法もあります。

情報発信は目的ではありません。事業や地域の状況を理解してもらい、顧客や支援者が自分で行動を選べる状態をつくるための手段です。

災害後には、事実と噂だけでなく不安や善意も入り交じります。何が分かっており、何が分からないのかを整理して伝えることで、支援する側も利用する側も動きやすくなります。まだまだ不安が残る状況かと思いますが、できることから積み重ねていきましょう。

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