
第2次世界大戦時、アメリカはドイツ軍からの対空砲火からどのように爆撃機を守るかの対応に迫られていました。基地に戻った爆撃機を確認すると、目立って被弾している箇所は主翼の一部および胴体の中央部分が多かったそうです。
アメリカ軍は対策として、損傷している部分の装甲を補強する方針を取ります。どの箇所をどれくらいの強度で補強すればいいか、統計学の専門家に助言を仰ぎました。さて、皆さんならどう助言するでしょうか。
専門家からは驚くべき回答がなされました。
「無傷の部分の装甲を厚くする」ように助言したのです。この専門家はなぜ逆張りともいえる回答をしたのか。その背景には「生存者バイアス」の存在があります。
生存者バイアスとは、選択過程で最後まで残ったものの情報だけを判断基準とし、その過程でいなくなったものは除外、無視され、正確な判断が歪められることです。つまり、上手くいった人だけの話で判断してしまうこと。
アメリカ軍の例では、任務から生還した爆撃機しか考慮されておらず、撃墜された爆撃機は評価に入っていません。生還できた爆撃機の弾痕は、損傷を受けても帰還できる箇所を表していると考えられました。そのため、被弾していない部分の装甲を厚くするよう助言がなされたのです。
生存者バイアスはあらゆる場面で見受けられる日常的な現象です。例えばビジネスにおいて、成功した人の話だけを鵜呑みにしてしまい安易に参入してしまう。その裏には、成功した人の何倍もの失敗した人がいるにもかかわらず…。
オリンピックの金メダリスト、国民的アイドル、難関試験の合格者…。いわゆる成功者の「サクセスストーリー」は多くの人の心を動かし、動機づけになっていることでしょう。しかしながら、その背後には“同じ時代、同じやり方”でも失敗した圧倒的多数の名もなき人々が存在しています。
通常の仕事でも気をつける場面が多々あります。例えば顧客のクレーム(カスハラは除く)。不満を感じ、クレームを伝えてくれる人はごく一部です。全体の1割にも満たないというデータもあります。
大半の人は「サイレントクレーマー」として何も言わずに来なくなる。これは撃墜された爆撃機の例と同じく、会社にとって本当の原因が直接的に見えない状況です。したがって、言われたこと(見えること)だけを改善していても、根本的な解決にはなり得ない。
既存顧客は不満があっても我慢してくれているだけで、早々にいなくなってしまうかもしれない。「今のお客さんは長く利用してくれているし大丈夫」と思っているのは、まさに生存者バイアスに絡めとられている可能性が高い。
もし今の売上が芳しくないとすれば、他のお客さんがすでに黙って離脱しているかもしれません。経営状況の悪化にはさまざまな要因があります。顧客の声は大事ですが、それはほんの一部でまさに氷山の一角。見えない部分が圧倒的に多い。
翻って、「見えない部分」というのは自分が見ないようにしているだけです。つまり自分の責任。情報は現場に漏れなくあります。むしろ解決策は現場にしかない。生存者バイアスのような、限定された、表面的で浅はかな情報だけで判断すると高い確率で失敗します。
経営者の皆さん。ぜひ現場に行き、五感をフル回転させてください。問題解決のヒントが山ほど眠っています。逆に言えば、現場に行かなければ絶対に問題は解決しないということでもあります。

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