
「セミは夏を知らない」という言葉があります。
セミは夏しか知らないのではなく、春秋冬という季節を過ごしたことがないため、自分が生きているのが「夏」ということさえもわからない。仏教の言葉です。
私たちが夏という季節を感じることができるのは、それ以外の季節を知っているからです。
この言葉はさまざまな解釈が可能です。仕事に関連することで言えば、同じ会社や業界で何十年も仕事をしていると、業界のことに詳しくなる反面、実のところ業界の本質がどんどん見えなくなる。
つまり、他の会社や業界を知らないために、自分の会社や業界がどんな状態なのかを正確に把握できない。何が強みで何が弱みなのかもわからない。
これは会社や業界に限らず、自分が属する組織全般にも言えることで、長年その組織だけにいると感覚が麻痺し、「我々の常識」という「世間の非常識」がうまれてしまう。
もっと小さい、家庭環境でもそうでしょう。自分が育った環境以外はわからないため、たとえ傍から見た自分の家庭が「恵まれていた」としても自分にはわからない。
さて、私も多くの組織に所属していますが、長く続く組織であればあるほど、「セミは夏を知らない」ような状況に遭遇します。
その人たちに悪気があるわけではなく、「知らないがゆえ」に誤った判断や行動をとってしまう。一部利己的な人はいますが、それ自体も視野の狭さが原因になっていると考えられます。
逆説的ですが、自分自身を知るためには、他人を知る必要があります。私たちがものごとを理解するためには「比較」が必要不可欠です。「夏のセミ」のように自分だけが知る世界を見ていても自分のことはわかりません。
「人と比べるな。自分の本心に従え」のようなアドバイスもありますが、実際自分が何を目指すかは視野を広げ、外の世界を知らないと何も出てきません。また、他の人の考えや行動によって自分の立ち位置がわかります。
つまるところ、自分の殻に閉じこもっていても何も始まらない。「夏のセミ」は夏の間しか生きられませんが、人間は100年近くの人生があり、時間の使い方もある程度自由が利きます。
しかも、脳科学的に人間だけが将来を考えることができるそうです。ここを生かさない手はない。一方で視野が狭くなると「今だけ」「ここだけ」「自分だけ」の考えになりがちです。
考え方に絶対的な良し悪しはないと思います。ただ、私たち経営者は未来を見据え、広い視野を持って行動することが求められています。私自身も自戒の念をもって、日々の仕事に取り組みたいと思います。

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