コラムNo.875 戦わずして勝つ方法

 中小企業の経営において、「自社の強みを活かした戦略を立てましょう」と言われることは多いですが、実際に強み戦略をどう定義し、どう日々の経営に活かすのかを具体的に理解している経営者は案外少ないものです。

 

たとえば「駅前の好立地」「落ち着いた内装」「最新の厨房設備」などを強みと思っているお店があります。しかし、それらは条件特徴に過ぎません。本質的な強みとは、時間をかけて積み重ねられた、模倣困難で無意識に近いスキルや習慣です。

 

ある和食店では、店主が30年以上かけて身につけた「調理時の温度管理」が絶対的な安定感を生み、刺身の質に圧倒的な差が出ます。しかし本人は「誰でもやってることですよ」と言います。

 

また別の小料理屋では、女将が常連客の誕生日や子どもの名前を自然と覚え、さりげなく話題にする。すると「ここは特別だ」と感じたお客様が、家族を連れて再来店します。こうした意識していないけれど続けていることこそが、真の強みです。

 

そして、その強みが活かされた結果、お客様が「安心できる」「また来たくなる」「誰かを連れてきたくなる」と感じる。つまり快の状態になる。これが「価値」です。

 

価値とは、単なる料理のスペックやボリュームではなく、来店体験を通じて感じる感情です。言葉としては「居心地がいい」「気が利いてる」「あの味が忘れられない」などとして表れ、行動としてはリピート・紹介・長居・高単価という数字に表れます。

 

翻って、戦略とはその価値を誰に”“どうやって届けるかを設計すること。そして何より、「他店との違いを意図的につくること」です。

 

ある居酒屋は「大衆的な酒場」ではなく、「一人でも通える、酒と料理の質にこだわった空間」として打ち出し、価格競争とは無縁のポジションを築いています。一方で、「ファミリーを取り込もう」としてメニューを増やし、内装を変えた結果、何の店か分からなくなったケースも少なくありません。

 

ここで大事なのが、「やらないことを決める」こと。すべての人を満足させることはできません。むしろ、「あえて断る」ことで、らしさが際立つのです。

 

たとえば「平日は常連しか入れない」と決めている寿司店や、「スマホ禁止」「撮影禁止」を貫く喫茶店。それが客層を選び、ブランドを築いています。

 

『孫子の兵法』には「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」「戦わずして勝つ」「勝算なきは戦わず」とあります。まさに中小経営にも通じます。他社が何をしているか、自分たちの強みが何かを冷静に見極め、無理に争わず、違う価値を提示する。これが選ばれる会社のあり方です。

 

そして、最後に必要なのが「事業計画」です。戦略を実行に移すには、「いつ・誰が・何を・どの順にやるか」を時系列で明らかにする必要があります。

 

たとえば「11月:新メニュー試作→12月:インスタ告知→1月:販促キャンペーン開始」など、月次の行動計画にまで落とし込んでいく。この段階でようやく、戦略は経営の血肉になります。

 

「自店の強みは、何気なく続けていることにこそ宿る」
「価値とは、を提供すること」
「戦略とは、違いをつくり、やらないことを決めること」

それらを時系列で実行するのが、事業計画です。

戦わずして選ばれる会社。それは、今日も淡々とらしさを積み重ねているお店なのです。

 

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