
「正社員の3割が「推し活」を楽しむ 月の平均支出は?」2025年10月29日、ITmediaビジネスONLINEはこう題した記事を掲載しました。
正社員の約3割が「推し活」をしているそうです。マイナビの調査によれば、推し活にかける月額平均は1万4千円台で、年代別では30代が最も多く、約8割が「推し活によって私生活が充実した」と回答しています。
注目すべきは、「推し活のために仕事を頑張っている」と答えた人が6割を超えている点です。つまり、推しの存在が仕事のモチベーションになっているのです。
かつて「推し」といえば、アイドルや俳優など、遠くから憧れる存在でした。いまではその対象が、YouTuberやクリエイター、地域の店主や同僚にまで広がっています。
SNSの普及によって“推す側”と“推される側”の距離が縮まり、誰もがどこかで「誰かの推し」になりうる時代になりました。推し活はもはや特別な活動ではなく、日常の中に溶け込んだ“共感の構造”なのです。
推し活の本質は、心理学でいう内発的動機づけにあります。人は「やらされている」ときよりも、「好きだから」「誰かのために」という理由で行動するときに、最も幸福度が高くなります。
自己決定理論で示される「自律性」「有能感」「関係性」がすべて満たされるためです。推しを応援する行為は、まさにこの三要素を同時に満たす行動であり、報酬や評価を求めずとも継続できるのです。
興味深いのは、「誰かのために」という行為が幸福を高めるという点です。心理学の研究では、自分のためにお金を使うよりも、他者のために使う方が幸福度が高いとされています。
推し活はまさにその実例であり、自分の推しを応援することで、自分自身が生きる意味を見いだしています。言い換えれば、人は他者を通してしか自分を満たせない存在なのかもしれません。
この構造は、ビジネスの世界にも通じます。顧客が「推せる企業」、社員が「推せる上司」、地域が「推せる経営者」。こうした関係性は、理屈ではなく感情によって築かれます。
合理性よりも誠実さ、戦略よりも物語。推される側に共通するのは、「信念を貫く姿勢」と「人間くささ」です。人は完璧な存在よりも、弱さや葛藤を抱えながらも前に進む姿に共感するのです。
ただし、「推されよう」と意識してつくると、たちまち軽薄になります。推し活は仕掛けるものではなく、結果として生まれるものです。
経営も同じで、「好かれよう」とする会社は好かれず、「信じることを貫く会社」が自然と推されます。ブランドはつくるものではなく、積み重ねた行動の結果として“推される”ものなのです。
推し活という言葉を、ビジネスの世界に持ち込むのは少し違和感があるかもしれません。しかし、働く人々が“誰かのために頑張れる”という構造は、経営や組織づくりにも深く通じています。経営とは突き詰めれば、人の心を動かす営みです。
数字や利益の先に、「推したくなる会社」「推されるリーダー」であるか。
この問いにどう向き合うかが、これからの時代の経営者の力量を決めていくのだと思います。

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