コラムNo.911 考えるな、動け

多くの経営論は
「考えが変われば行動も変わる」
と語りますが、実際の現場は真逆です。

 

行動が先。
成果が出ると、考えが変わる。

 

この順番を理解しているかどうかで、会社の前進スピードは大きく変わります。私はこれまで多くの経営者と向き合うなかで、「考えが変わらないから動けない」のではなく、「まず動いていないから、考えが変わるきっかけが訪れない」という現象を何度も見てきました。

 

そもそも、人の価値観や性格は簡単には変わりません。
変えようとすると時間もエネルギーも必要で、抵抗も生まれます。しかし、「まず手をつけてみる」ことなら誰にでもできます。

 

動き始めると、小さくても結果が出ます。その結果が自信となり、行動への迷いが減り、やがて考え方まで変わっていく。

 

では、なぜ人は動き出せないのか。
怠けているからでも、意志が弱いからでもありません。

人間は「快を求め、不快を避ける」という根源的な本能を持っています。

 

新しい挑戦に踏み出すときには不安や負荷が伴いますが、何もしなければ現状維持というが手に入ります。この動かない快が、本人も気づかないうちにブレーキとなるのです。

心理学では、これを「裏の目標」と呼びます。

表向きは「変わりたい」「もっと良くしたい」と言っていても、裏側では「動かないことで守られるもの」が存在しているという考え方です。

 

たとえば、

「決断しなければ責任を負わずに済む」

「行動しなければ批判されずに済む」

「現状のままなら未知の不安に向き合わなくてよい」

こうした守られる感覚が、動くことよりも優勢になってしまうのです。

だから私は、人を無理に変えようとする必要はないと考えています。

変えるべきはその人の性格ではなく、まず一歩を踏み出せるように設計する環境です。

最近の支援では、この「環境づくり」が見事に作用した出来事がありました。

長らく動き出せなかった経営者に対し、現状の問題点、今後のリスク、前に進んだ場合のメリットを一枚の図に整理し、スライドとしてお見せしました。

数字の流れ、経営構造のつながり、未来の見え方を視覚的にまとめたものです。

すると、その経営者の表情が一気に変わりました。
「なるほど、これでは確かに進まないとやばいな」
そう言って、その日のうちに最初の一歩に着手されました。

 

文字や口頭だけでは動けなかった方が、図を見た瞬間に動き始める。これは、視覚情報が思考を飛び越えて感情に届く力を持っているからです。

 

直感に訴える図や画像、グラフは、人を動かすうえで非常に効果的です。メリットが一目でわかり、判断が早くなり、迷いがなくなります。視覚化は単なる説明資料ではなく、行動を生み出すためのツールなのです。

 

さらに、私は必要に応じて軽い強制力を使うこともあります。
強制力といっても威圧ではなく、

・期限を切る

・作業を細かく分ける

・進捗を毎週報告してもらう

 

といった、動かざるを得ない状況をつくるための仕組みです。
裏の目標(動かない快)を上回る環境を整えることで、動き出しが一気に軽くなります。

 

そして一度動き、成果が生まれると、本人は自然に納得します。
納得が次の一歩を軽くし、その積み重ねが最終的に考え方の変化につながります。

人を変える必要はなく、考えを変えようとする必要もまったくない。

 

まず動き出せるように整えること。
その一歩が成果を生み、考え方があとから変わる。

 

これが中小企業の現場で人が動く本質だと感じています。

会社を動かすのは、最初の一歩です。その一歩を生み出す仕組みをつくることこそ、経営者にしかできない仕事だと思います。

 

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