コラムNo.997 経営は引き算

売上が落ちてくると、やることが増えます。

新しい商品をつくる。SNSを始める。広告を出す。新規顧客を開拓する。補助金を探す。新しい事業を考える。

どれも間違ってはいません。むしろ、一つひとつを取り出せば、もっともらしい施策ばかりです。

ところが、経営相談で会社の状況を詳しく聞いていくと、問題は「何もしていないこと」ではなく、「いろいろなことをやりすぎていること」にある場合があります。

特に中小企業は、人も、お金も、時間も限られています。

社長が新しい企画を始めれば、その企画を動かす誰かが必要になります。新商品を増やせば、仕入れや在庫、販促、管理の仕事も増えます。SNSを始めれば、更新する時間が必要です。

一つの施策は、一つの仕事だけを増やすわけではありません。

その後ろに、いくつもの仕事を連れてきます。

ところが、新しいことを始めるときには、その負担は意外と見えません。

見えるのは、新しい売上です。

月50万円売れるかもしれない。新しい顧客が増えるかもしれない。将来の柱になるかもしれない。

一方で、それを実現するために何時間必要なのか、誰が担当するのか、既存の仕事がどれだけ圧迫されるのかは、あまり計算されません。

その結果、売上を増やすために始めた施策が、会社全体の生産性を下げることがあります。

これは経営者の能力の問題ではないと思います。

人は、不安になると何かをしたくなるからです。

売上が下がっているのに何もしないのは怖い。周囲の会社が新しいことを始めれば、自分も動かなければ取り残されるような気がする。

だから、仕事を足していきます。

しかし、経営資源が一定である以上、何かを増やせば、どこかが薄くなります。

10の力を持つ会社が、一つのことに10を使うのと、五つのことに2ずつ使うのとでは、同じ10でも結果はかなり違います。

もちろん、何でも一つに絞ればよいという話ではありません。

大切なのは、自社の限られた経営資源が、どこに使われているのかを把握することです。

売上に結びついている仕事。利益を生んでいる仕事。顧客から評価されている仕事。

そして、昔から続けているという理由だけで残っている仕事。

忙しい会社ほど、この区別がつかなくなっています。

「忙しい」と「儲かっている」は同じではありません。

むしろ仕事が増えすぎると、重要な仕事に十分な時間を使えなくなります。顧客への対応が遅れ、現場の余裕がなくなり、ミスが増える。それを解決するために、さらに仕組みや会議を増やす。

こうして会社は少しずつ複雑になります。

経営改善というと、新しい施策を考えることだと思われがちです。

私は、それだけではないと思っています。

いまやっていることを一度並べてみる。なぜ、それをやっているのか。どれくらい売上や利益につながっているのか。誰の時間を使っているのか。やめたら、本当に困るのか。

そう考えていくと、意外と「なくても困らない仕事」が見つかります。

会社を変えるために、必ずしも新しいことを始める必要はありません。

一つやめるだけで、人の時間が空くことがあります。一つの商品を減らすだけで、在庫管理が楽になることがあります。一つの事業から撤退することで、残った事業に経営資源を集中できることもあります。

経営とは、可能性を増やし続けることではなく、限られた資源をどこに使うかを決めることなのでしょう。

だから、次に「何か新しいことをやろう」と考えたときには、その前に一つだけ確認してみてもよいと思います。

それを始めるなら、何をやめるのか。

この問いのほうが、新しいアイデアを考えることより難しく、そして経営にとって重要なのかもしれません。

    今週の経営コラムを無料でお届け 無料メールマガジン登録はこちら
    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!
    目次