「民間平均給与487万円、2年連続で最高更新 賞与は74.9万円で微増」2026年9月29日、日本経済新聞はこう題した記事を掲載しました。
国税庁が公表した2025年の民間給与実態統計調査によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は約487万円となり過去最高を更新しました。
487万円には賞与も含まれています。内訳を見ると、給料・手当が約412万円、賞与が約75万円です。
ただ、「日本人の平均給与は487万円」と聞いて、自分の感覚とはずいぶん違うと思った人もいるのではないでしょうか。
給与階級別の分布から推計すると、中央値は約420万円です。つまり、給与所得者を低い方から順番に並べたとき、ちょうど真ん中にいる人の給与は、平均より60万円以上低くなります。
さらに、最も人数が多い給与帯は300万円超400万円以下です。
平均値は、一部の高所得者によって引き上げられます。平均487万円という数字だけでは、実際の給与分布はなかなか見えてきません。
さらに興味深いのは、業種による違いです。
国税庁の統計では、宿泊・飲食サービス業の平均給与は約276万円。一方、情報通信業は約682万円です。同じように1年間働いても、業種によって平均給与には大きな差があります。
もちろん、宿泊・飲食業にはパートやアルバイトが多いという事情があります。
しかし、短時間労働者を除いて比較しても差は残ります。厚生労働省の統計では、一般労働者の月額賃金は、宿泊・飲食サービス業が約27.7万円、情報通信業は約40.6万円です。
ここから見えてくるのは、給与は本人の努力だけでは決まらないということです。
企業についても同じです。
業種や業態を選んだ時点で、粗利率、必要な人員、設備、1人が処理できる仕事量などは、ある程度決まります。
飲食店であれば、席数、回転数、客単価、営業時間によって売上には物理的な上限があります。美容室なら、スタッフ数と1人当たりの施術可能人数によって上限が決まります。製造業なら設備能力や稼働時間があります。
つまり、売上は努力すれば無限に増えるものではないということです。
粗利率にも業種ごとの特徴があります。そして、売上と粗利に上限があれば、その先にある「払える給与」にも当然上限があります。
ここを知らずに、「もっと売ればいい」「もっと頑張ればいい」と考えても、構造上の限界を超えることはできません。
では、利益や給与の原資を増やすにはどうするのか。
固定費が大きく変わらない前提なら、基本は、もっと数を売る、値上げする、変動原価を下げるなどが挙げられます。
しかし、中小企業では固定費がすでにかなり絞られていることも多く、削減余地はそれほど大きくありません。
原価も同じです。食材や材料の質を落とせば、商品そのものの価値まで下がる可能性があります。
販売数量を増やすにも限界があります。売れば売るほど人手が必要になる業態では、売上が増えても忙しくなるだけで、1人当たりの付加価値が増えないこともあります。
だからこそ、まず自社がどのような構造の中で商売をしているのかを知る必要があります。
そのうえで、値上げするのか、販売数量を増やすのか、より粗利の高い商品を増やすのか、顧客層を変えるのか、あるいは業態そのものを変えるのかを考えます。
これは従業員の立場でも同じです。
収入を増やそうとしてダブルワークをすれば、確かに額面収入は増えます。しかし、時間単価が変わらなければ、自分の時間をさらに売っているだけでもあります。
人間には1日24時間しかありません。
給与は高ければ高いほどよいとは言えません。しかし、一定の水準がなければ、生活するだけで精一杯になります。貯蓄も難しくなり、勉強する時間やお金、転職する余裕、将来のために何かを始める余白もなくなります。
余裕は、単なる豊かさではありません。
次の選択をするための資源でもあります。
だから企業も個人も、ただ努力量を増やすだけではなく、まず自分がいる場所の構造を知ることが大切です。
何を売っているのか。誰に売っているのか。どこまで売上を伸ばせるのか。どれだけの付加価値を生み出せるのか。
個人であれば、どの業界で、どの仕事を、どの単価で提供しているのか。
自分では変えにくい構造と、自分で変えられる部分を分けて考える。
そのうえで、自分の限られた時間、能力、資金をどこに集中するかを決める。
成功するかどうかは、努力の量だけでは決まりません。
まず構造を知る。そして、自分の力をどこに集中させるのかを選ぶ。
平均給与487万円という数字から考えるべきなのは、案外、そんなことなのかもしれません。

