ニュースの論点No.242 国内生産回帰は誰のため

 「アパレル、国内生産回帰」20211215日、日本経済新聞はこう題した記事を掲載しました。記事によれば、「ワールドやTSIホールディングスなどアパレル大手が国内への生産回帰を進める」としています。

 

 円安や現地の人件費上昇に加え、コロナ禍の影響で物流体系が混乱している中、各社は商品の安定調達をするべく、国内生産比率を数年で3割以上にする見通しとのことです。

 

 アパレル業界を俯瞰して見ましょう。日本のアパレルの市場規模は1991年の15.3兆円をピークに縮小傾向が続いています。そして現在、といっても2019年の数字になりますが、市場規模は9.1兆円と実に4割も減っています。

 

 ところが、規模の縮小に反比例するかたちで、供給量は増加傾向にあります。衣服の需給バランスについては、先述の1991年頃が最も均衡していました。しかし、2017年には約28億着の供給量(ピーク時から倍増)に対し消費量は約13億着(ピーク時から横這い)。その差である約15億着は余剰在庫として、各社が様々な方法で処分しているということになります(累計ではなく毎年ですね)。

 

 相当な量が処分(おそらく廃棄)されていますが、28億着も日本で供給される衣類はどこで作られているのでしょうか。当然国内生産は少なく、金額ベースでは79%、数量ベースだと何と98%が「海外生産」されています。98%のうち中国が6割以上を占め、それにベトナムやインドネシアが続きます。

 

 そんな背景を知ったうえで今回のニュースを見ると、また違う印象が得られるのではないでしょうか。国内生産が増えることは「普通にいいこと」と思いがちですが、どうやら事はそう単純ではないようです。

 

 さらに状況を深堀りすると、日本国内の縫製事業所のうち、従業員29人以下の事業所は9割以上と小規模な事業所が多くなっています。また、これらの縫製事業所も含めた繊維・衣服業では、約30000人の外国人技能実習生を受け入れているそうです(賃金不払いなどの不正行為も少なくありません)。

 

 つまり、日本で作っているとはいえ、外国人頼みになっており、待遇面でもあまり恵まれているとはいえず…という状況がすでに起こっているのです(ご存じの通り、海外の工場も決して恵まれているとは言えません)。

 

 そもそも、日本だけで需要の倍以上となる15億着も余剰在庫、つまりムダが発生しているのであれば、各国の工場では半分以上を「捨てるため」に作っていることになります。しかも、劣悪な環境や安い賃金という従業員も多く、倫理的にも問題が山積しています。

 

 果たして、国内生産に回帰して誰が得をするのでしょうか。もちろん、SDGsよろしく、ムダな商品は作らず、長く着ることができる品質の高いものを作ったり、環境に配慮したり、従業員を好待遇にしたりと大義名分はあるのかもしれません。

 

 とはいえ、個人的には今回の各社の取り組みからは、あくまで効率やコスト面重視で、真摯な姿勢は感じられませんでした(あるかもしれませんが)。当然企業なので効率やコスト面は考えるべきですが、今はムダな在庫をもっと減らす努力をするのが先だと思います。

 

 経営者の皆さん。木を見て森を見ず、あるいは森を見て木を見ずにならないように、普段から視座や視野、視点を変えながら考え、行動するようにしましょう。私も偉そうなことは言えません。自戒の念を込め、今後の行動につなげていきたいと思います。

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