ニュースの論点No.962 感情ミュート社会

「職場と家庭で広がる”感情ミュート社会”とは何か?過半数が「気持ちを出さない」時代、喜びさえも抑える理由とは?」2026年5月30日、東洋経済オンラインはこう題した記事を掲載しました。

博報堂生活総合研究所の調査によると、56.3%が「あえて自分の感情を出さないようにしている」と回答しました。この記事では、オンライン会議のマイクをオフにするように意識的に心を閉ざす傾向を「感情ミュート社会」と名づけています。

感情を抑える場面は仕事のときが最多ですが、プライベートや、良いことがあっても浮かれすぎないようにするといった抑制にまで及んでいます。背景には、多様性への配慮や無駄な摩擦を避ける効率思考があると考えられています。

職場の「不自然な静けさ」がもたらす影

こうした動きは中小企業の職場でも見られます。ハラスメントを恐れて若手を腫れ物扱いしてしまう上司と、生身の感情に慣れず、スマホの「いいね」などの記号で感情を測りがちな若者世代。

その間に生まれるのは、トラブルのない、しかしどこか冷え切った不自然な静けさです。昭和のスパルタに戻るべきではありませんが、お互いに触れない関係もまた組織の活力を削ぐ原因になります。

感情の抑制が奪う「決断する力」

人間は本質的に感情の生き物です。脳科学でも、感情を司る部位を欠損した人間は知性が正常でも決断ができなくなると分かっています。

ビジネスでリスクを取り、挑戦し、困難を乗り越える際に背中を押すのは、常に情熱や危機感といった感情です。そのため、感情をミュートした職場は、社員が自分で決断し、主体的に動くエネルギーをも抑え込んでしまいます。

感情の動きを総計したものが人生であるとするならば、職場から生身の感情を締め出すことは、働く人の人生そのものを無機質で希薄なものに変えてしまいかねません。

そこで必要になるのが、職場で生身の感情を取り戻していくための「感情のリハビリ」です。

そのためには減点主義をなくし、安心して失敗できる環境を整えることが基本となりますが、それだけでは甘いだけの組織になってしまいます。思い通りにいかない局面に耐える我慢強さを鍛える場面も欠かせません。

出来事に対する「意味づけ」を書き換える

感情を遮断してしまう社員に我慢強さを身につけさせる鍵は、出来事に対する「意味づけを変える」ことにあります。

感情は、起こった出来事への本人の反応として生まれます。事実は変えられなくても、意味づけが変われば感情や行動は大きく変わります。

たとえば、失敗を能力不足ではなく「うまくいかない方法を発見した貴重なデータ」や「決断した証拠」と再定義します。

また、思い通りにいかない逆境を単なる不快なものと捉えるのではなく、自分の枠を広げている最中の成長痛という意味づけを提示します。意味づけの選択肢が増えれば、社員は感情をシャットアウトせず、適切な負荷を受け止めながら粘り強く課題に向き合えるようになります。

安心して熱意を持てる組織へ

熱くなることはダサいことではなく、失敗も恥ではないという共通認識を、まずは経営者が日々のコミュニケーションで示すことが大切です。

大企業のようにシステムやマニュアルだけで組織を動かすことが難しい中小企業だからこそ、社員の主体性や決断力が最大の原動力になります。

職場で起きる出来事に対して、経営者が前向きで人間らしい意味づけを示し続けていくこと。社員が安心して熱意を持ち、自ら決断して動ける組織をつくるための現実的なアプローチではないでしょうか。

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