コラムNo.885 言葉の限界

多くの経営者はセンスで走ります。

市場の動きを読む感覚、人を見抜く直感、顧客の変化を察知する勘。数字や理屈では説明できない部分が、経営の大半を支えています。センスは経営者の最大の強みであり、未来を切り拓く力です。

 

しかし、センスだけでは組織は動きません。経営者自身には筋道が見えていても、社員には唐突に映る。理由を語らなければ「気まぐれ」と受け取られ、不信を生みます。センスが強みであるがゆえに、言葉を欠いた瞬間に大きな弱みへと変わるのです。

 

ある飲食店の社長は、「今こそ新メニューを投入すべきだ」と直感で判断しました。確かに市場の流れを読んだ正しい決断でしたが、現場への説明はなく「やれ」と一言。社員は戸惑い、準備不足のまま動かされることに。

 

結果、せっかくの新商品も支持を得られませんでした。センスは正しくても、言葉が欠ければ成果につながらない。現場で繰り返される典型的なすれ違いです。

 

一方、製造業社長の例。社長は日ごろから「品質を徹底せよ」と言い続けていましたが、社員は「検査を厳しくすること」と解釈し、不満を募らせていました。

 

「私たちの商品は災害時に使われる。ひとつの欠陥が命に関わる」

ある時、社長が言葉にしたその瞬間、社員の目が変わりました。理由が示されたことで、単なる作業が使命に変わったのです。言葉ひとつで人が動き、組織が変わることを示す出来事でした。

 

理由のない指示は作業にしかなりません。理由が語られた瞬間、社員は納得し、自分の行動に意味を見出します。

 

一方で人が言葉にできることは限られています。世の中全体の20%に満たないかもしれません。残りの80%は感覚や直感、無意識の価値観です。しかし、そのわずかな言葉こそが経営を支えます。

 

言葉と同じく、「センス80%、スキル20%」という経営の構造があります。センスは言葉にならない領域であり、経営者ならではの強みです。しかし残り20%を磨き、言葉にし、スキルとして整理しなければ、センスは独りよがりで終わります。

 

逆にその20%を丁寧に磨けば、センスは組織全体の力へと転換します。社員は「社長の直感」を自分ごととして理解できる。そこに経営の推進力が生まれるのです。

 

言葉にできることは少ない。だからこそ、磨かれた言葉には大きな力が宿る。経営者自身の思考を整理するだけでなく、社員と共有し、行動を方向づける羅針盤となります。

 

センスで未来を感じ取り、言葉でその意味を伝える。この二重構造を意識できるかどうかが、経営の明暗を分けます。

 

なぜこの事業を行うのか。何のために存在しているのか。その答えを示すものが、ミッションでありビジョンです。これを語らずに走り続ける経営は、土台を欠いた建物と同じです。

 

センスもスキルも、その基盤があって初めて力を発揮します。ミッションとビジョンを言葉にすること。それが経営の持続力を決める要となります。

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