コラムNo.887 最も重要な経営者の仕事

最近、経営改善に携わることが多くなっています。これらの会社の経営者によくある特徴として、「決断の先送り」が挙げられます。

 

資金繰りが苦しい、売上が落ちている、新たな施策が必要だ…。状況は明らかにもかかわらず、「今は様子を見よう」「もう少し材料が揃ってから」と行動を後回しにする。結果として改善のタイミングを逃し、傷口が広がってしまうのです。

 

私は経営者に必ず問いかけます。
「このまま放っておくと、どうなりますか?」
健全な危機感を持つことが、意思決定の第一歩だからです。

 

もっとも、決断をためらう気持ちは理解できます。経営の現場では、すべての材料が揃うことはなく、どの策を選んでもリスクが伴います。だからこそ「もう少し待てば楽な答えが見つかるのでは」と考えたくなるのです。

 

しかし、完全な材料が揃ってから判断するのは、経営者でなくてもできる単なる論理的帰結に過ぎません。決断とは、不確実性の中であえて選ぶ行為に他ならない。

 

「決断」という言葉自体にもヒントがあります。「決」の字にはさんずい(水)が入っています。もともと「決」は、堤防を切って水を流すことを意味しました。洪水の拡大を防ぐために、あえて一部を犠牲にし、他を守る行為です。つまり決断とは、「何かを得るために、何かを断ち切る覚悟」そのものなのです。

 

経営においても同じです。典型的なのは不採算事業からの撤退です。ある理容業の経営者は、美容部門を続けてきましたが、赤字が続きキャッシュ不足や人手不足が深刻化しました。私から数字や状況が客観的に提示されたことでようやく現実を直視し、撤退を決断。本業の理容に集中したことで経営は黒字化しました。

一方で、別の小売業の経営者は、来客数が減り続ける中で新しい集客策を何度も提示されたにもかかわらず、「人がいない」「資金が足りない」と先送りを続けました。状況が悪化してから慌ててSNSなどの取り組みを始めましたが、時すでに遅し。売上は回復せず、資金繰りも限界に達し、最終的に店舗を閉じざるを得ませんでした。

 

これは「決断」ではなく、追い込まれて「やらざるを得なかった」だけの消極的行動です。未来を守るために自ら犠牲を選ぶ覚悟とはまったく異なります。

 

ここで大事なのは、「決断」と「行き詰まってやむなく行動すること」はまったく別物だということです。前者には覚悟と主体性がありますが、後者は受動的であり、逃げ続けたツケを払っているだけです。経営者の役割は、材料が揃うのを待つことではなく、不完全な状況の中であえて選び取ることにあります。

 

決断とは、未来に責任を持ち、犠牲を選び取る覚悟です。経営者の分かれ道はただ一つ。「自ら未来を選ぶか、状況に選ばれるか」。先送りを続ければ、支援者すら離れていきます。逆に、覚悟を持って決断する経営者には、未来を切り開く力が備わっているのです。

 

だからこそ、以下の問いを避けずに自分に投げかけてみましょう。

「このまま放っておくとどうなるのか?」

 

答えは厳しいかもしれません。しかし、現状を直視したときにこそ、本当の決断が生まれます。そして、その決断は必ず未来を動かします。経営者の一歩は小さくとも、その覚悟が組織と周囲に伝わり、道を拓くのです。

 

    今週の経営コラムを無料でお届け 無料メールマガジン登録はこちら
    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!

    コメント

    コメントする

    目次