コラムNo.931 無意識の安売りが、いい客を遠ざける

なぜか対応が大変な客ばかりが増えている。なぜか以前のような良い客が減っている。そう感じているなら、それは「無意識の安売り」が原因かもしれません。

 

私がアパレル小売店を経営していた頃、セール期間になると客層が一変しました。値札だけを見て商品を掴み、「もっと安くならないのか」と値引き交渉を繰り返す。バーゲンハンターやチェリーピッカーと呼ばれる人たちです。彼らは必ずしも経済的困窮者ではなく、「安く買うこと」それ自体が目的化している層でした。

 

こうした客層の変化は、本来大切にすべき顧客を遠ざけていきます。顧客は商品やサービスだけを見ているのではありません。その場にいる他の客、店の雰囲気、そうした体験全体を見ています。取り合いをするような光景の中で「ここは自分の来る場所ではない」と判断し、静かに去っていくのです。

 

安売りの最も恐ろしい点は、質の悪い客が質の良い客を追い出してしまうことです。一度客層が悪化すると、さらにいい客が離れ、売上が落ち、苦し紛れにまた安売りをする。この負のスパイラルから抜け出すのは容易ではありません。

 

とはいえ、多くの中小企業は意図的に安売りをしているわけではありません。むしろ「無意識に」安売りをしているのです。毎日当たり前にやっている技術が、実は市場では希少価値があることに気づいていない。

 

長年培った信頼関係や丁寧な相談対応を「このくらいサービスでしょ」と無料で提供している。いい素材を使い、手間のかかる工程を経ても、それを価格に反映していない。謙虚さが適正価格をつける妨げになっているのです。

 

では適正価格に変えれば問題は解決するのかというと、そう単純でもありません。高単価にするには、その価格に見合った納得感を設計する必要があります。安っぽい内装や適当な接客のまま値段だけ上げても、顧客は納得しません。

 

加えて、いい素材や手間のかかる加工、自社だけの技術があっても、それが伝わっていなければ意味がないのです。製造工程の写真、素材の説明、技術的な優位性。こうした価値を可視化し、言語化する努力が不可欠です。

 

そして忘れてはならないのは、高単価なサービスを利用する層は経験も豊富で目も肥えているということです。本物と偽物を見抜く目があり、中途半端な対応はすぐに見抜かれます。

 

ただしバーゲンハンターの理不尽な要求とは質が違います。高単価客の要求は正当であり、建設的なフィードバックをくれます。対応すれば長期的な関係が築け、その過程で自社のレベルも上がっていくのです。

 

価格設定は単なる数字の問題ではありません。それは「誰と付き合うか」という意思表示であり、どんな顧客と共に成長していきたいかという経営判断です。無意識の安売りを続ける限り、価値を理解しない客層に振り回され、本来大切にすべき顧客を失い続けることになります。

 

まずは自社の強みを見つめ直し、それを適正に評価することから始めてみてはいかがでしょうか。

 

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