
「5%の賃上げでも「転職検討」が9割 給与以上の「辞めたい」理由とは?」2026年2月18日、ITmediaビジネスONLINEはこう題した記事を掲載しました。
転職を考える理由の1位は「キャリア成長不足・スキルの停滞」で、次の転職先に「年収を最優先する」と答えたのはわずか12.7%でした。給与を上げても離職意向が変わらないなら、もはや賃上げに意味はないのか。そう結論づける前に、この調査の背景を確認しておきたいと思います。
調査の対象者は、転職サービスの登録者442人です。すでに転職を意識し、行動に移している人たちです。給与を含む何らかの不満がある程度整理されたうえで「次に何を求めるか」を聞けば、給与以外の要素が上位に来やすいのは自然なことです。データは正確でも、読み方を誤れば判断を誤ります。
心理学者ハーズバーグが提唱した「衛生要因」という概念があります。給与や労働環境は、不十分であれば強い不満の原因になります。しかし十分であっても、それだけでは人は動機づけられない。
「給与は転職の決め手にならない」のではなく、「給与は必要条件であって十分条件ではない」。これが正確な解釈です。業界相場を下回る給与のままでは、どんな施策も効きません。
採用には順番があります。まず条件面で同業他社に勝つこと。採用市場はある程度自然にセグメントが分かれており、中小企業は中小企業同士で戦う場に立っています。その土俵で条件面が互角以上になって初めて、ビジョンや成長環境で「選ばれる競争」に参加できます。この順番を間違えると、ビジョンをいくら語っても届きません。
では、条件を整えたうえでビジョンを語ればいいのか。ここで多くの中小企業が壁にぶつかります。魅力がないわけではない。良い社風がある、面白い仕事がある、成長できる環境もある。でも、それが言葉になっていないのです。求職者にも、既存の社員にも、伝わっていない。
これは採用に限った話ではありません。自社の商品やサービスの価値を言語化できていない中小企業は非常に多い。魅力はあるのに、言葉にできないまま埋もれている。人材も、商品も、同じ構造です。言葉にできないものは伝わらない。伝わらないものは選ばれない。突き詰めると、これは経営者自身の言語化力の問題です。
言語化は、経営そのものです。
あなた自身は、自社の魅力を一言で説明できますか。自社の商品の価値を、自分の言葉で語れますか。それが顧客には選ばれる理由になり、求職者には入社する理由になり、社員には働き続ける理由になります。賃上げと並行して、まず経営者自身の言葉を整えることから始めてみてください。

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