コラムNo.937 「ものの言い方」ですべてが決まる

私は中小企業診断士、経営コンサルタントとして、日々多くの経営者や従業員の皆様とコミュニケーションを図っています。その中で痛感するのは、企業の生産性や業績を左右するボトルネックが、実は日常の「ものの言い方」に潜んでいるという事実です。

 

素晴らしい事業計画や優秀な人材が揃っていても、「言い方」がまずいだけで仕事がスムーズに進まず、プロジェクトが頓挫してしまうことすらあります。これは単なる人間関係の摩擦にとどまらず、企業にとって相当な経営的損失であると私は考えています。

 

コミュニケーションには対面やメール、チャットなど多様な形がありますが、共通して見られる問題があります。それは「前提や目的の説明がない」「期限がない」といった基本的な情報が不足していることや、相手への気遣いを示す言葉などが省略されてしまうことです。

 

「申し訳ありませんが」「恐れ入りますが」「もしよろしければ」といった言葉が抜け落ちると、途端に言葉の角が立ちます。特に文字だけのチャットツールなどでは、冷たい命令のように響き、相手のモチベーションを大きく削ぎ落とします。

 

また、言葉そのものだけでなく、それに伴う「態度」も相手への強いメッセージとなります。部下が報告や相談に来た際、パソコンなどの作業をやめず、相手の顔や目を見ないまま生返事をしていませんか。これは相手を軽視しているという最悪の「言い方」です。

 

さらに「言い方」の重要性が増すのが、相手を叱る場面です。経営者や管理職がやりがちなのが、「普通に考えればわかるだろ」「今まで何をやっていたんだ」「みんなは上手くやっている」といった、相手を追い詰めるまずい叱り方です。

 

これらは感情のままに自分のために怒っているだけで、相手の自尊心を傷つけ思考を停止させます。叱る際は詰問にならないよう、事実を客観的に聞くことが大切です。「どんな経緯だった?」「どこが問題だったと思う?」と相手に問いかけてみてください。

 

「○○さんにしては珍しいね」と信頼を示しつつ、「今後どうすればいいと思う?」と未来に向けた改善策を一緒に考える姿勢が求められます。自分の感情をぶつけるのではなく、論理的に相手の成長のために叱ることが、仕事を進める上で不可欠なアプローチです。

 

一方で、相手を褒める場面もまた難しく、使い方次第では白々しくなってしまいます。単に「よくやった」と主観で褒めるのではなく、叱る時と同様に事実に基づき、結果に至るまでのプロセスそのものを具体的に褒めることが、相手の心に響くポイントです。

 

「○○さんの地道な実践が目標達成につながり、望ましい成果を生み出した」というように、事実を論理的に承認することで再現性が高まります。もちろん、チーム全体で大きな目標を達成した場合などは、感情をむき出しにして共に喜ぶことも時には必要です。

 

最後に最も重要なポイントがあります。これまでお伝えしてきたような「言い方」の工夫は確かに重要ですが、そもそもお互いの間に「信頼関係」という強固な土台がなければ、どのような言葉を投げかけても相手の心には全く通じないということです。

 

今まで無頓着に思うがままのコミュニケーションをとり、一貫性のない対応をしてきた経営者が、急に小手先のテクニックとして「言い方」だけを繕っても意味がありません。それどころか「何か裏があるのでは」と警戒され、火に油を注ぐ結果になりかねません。

 

「ものの言い方」ですべてが決まるというのは、言葉の裏にある経営者の日常の姿勢や、相手へのリスペクトがそのまま伝わるからです。まずは日々の誠実な関わりを通して信頼関係を築き、その上で相手を活かす「言い方」を実践していただきたいと思います。

 

 

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