コラムNo.985 熊本地震で考える、「いくら借りるか」の正解

7月28日に発生した令和8年熊本地震から、まもなく1か月が経ちます。

建物や設備の復旧だけでなく、営業休止や客数の減少、取引先への影響など、事業者によって被害の形はさまざまです。こうした状況で経営を継続するために、避けて通れないのが資金繰りです。

熊本県では8月24日から、今回の地震の影響を受けた中小企業者を対象に「金融円滑化特別資金(令和8年熊本地震枠)」の申込みが始まります。

熊本県URL↓

https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/61/277230.html

融資限度額は1企業8,000万円、融資期間は10年以内、うち据置期間は2年以内。信用保証料は県の補助により0%です。罹災証明書や被災証明書を持つ事業者だけでなく、地震の影響によって売上高、売上総利益率、営業利益率が減少している、または減少する見込みの事業者も対象となります。

被災した事業者にとって重要な制度ですが、今回は制度の紹介だけではなく、これを機に「そもそも中小企業は、どこから、どのようにお金を借りているのか」を考えてみたいと思います。

■「県から借りる」わけではない

「県の融資制度」と聞くと、県がお金を貸してくれるように思えるかもしれません。しかし、実際に融資するのは銀行や信用金庫などの金融機関です。

ここに信用保証協会が加わります。

中小企業は大企業に比べて財務基盤が小さく、担保となる資産も限られます。そのため、金融機関だけでは融資が難しい場合があります。そこで信用保証協会が中小企業の債務を保証し、万一返済できなくなった場合には金融機関に代位弁済することで、金融機関が融資しやすくする仕組みが設けられています。

一方、日本政策金融公庫は少し違います。

公庫は保証するのではなく、自ら事業者に融資する政府系金融機関です。今回の熊本地震でも特別相談窓口が設置され、国民生活事業では災害貸付、中小企業事業では災害復旧貸付が用意されています。

つまり、大まかに整理すれば、

銀行・信用金庫のプロパー融資
金融機関が直接融資し、自らリスクを負う。

信用保証協会付き融資
金融機関が融資し、信用保証協会が保証する。

自治体の制度融資
自治体が制度を設計し、金融機関や信用保証協会などと連携して資金供給を支援する。

日本政策金融公庫の融資
公庫が事業者に直接融資する。

という違いがあります。

災害時に突然、新しい金融の仕組みが現れるわけではありません。普段からある中小企業金融の仕組みに、災害対応として保証枠や保証料、据置期間などの特別措置が加わっていると考えると分かりやすいでしょう。

■では、どの融資を選べばよいのか

ここで気になるのが、「結局、どこから借りるのが一番よいのか」ということです。

しかし、金利だけを比較して決めるものではありません。

まず確認すべきなのは、何のために、いつ、いくら必要なのかです。

営業再開までの運転資金なのか。壊れた設備を復旧するための資金なのか。売上が元に戻るまで半年程度かかることを見込んだ資金なのか。それによって必要額も必要な期間も変わります。

そのうえで、既存の借入状況、金融機関との取引関係、信用保証協会付き融資の利用状況、公庫からの借入、返済期間や据置期間などを見ながら選びます。

場合によっては、新たに借りるだけでなく、既存借入の元金返済を一定期間猶予してもらう方が資金繰りに有効なこともあります。実際、公庫も今回の地震の影響を受けた事業者について、返済猶予等の相談に柔軟に対応するとしています。

■「借りられる額」と「借りるべき額」は違う

災害時には先行きが見えません。

「今後どうなるか分からないから、借りられるだけ借りておこう」

そう考える経営者もいるでしょう。

これは一概に間違いとは言えません。資金がなくなってから金融機関に相談するより、余力があるうちに資金を確保しておくことには意味があります。特に災害時には、平時よりも手元資金を厚くしておく必要性もあります。

ただし、借りられる額と、借りるべき額は同じではありません。

8,000万円まで借りられる制度があるから、8,000万円借りるという話ではありません(そもそも8000万は難しいでしょう)。

現在の現預金はいくらあるのか。今後の売上はいくらになるのか。固定費はいくら出ていくのか。保険金などの入金はあるのか。復旧にいくら必要なのか。既存借入の返済はいくらあるのか。

まず資金繰りを見通し、「いつ、いくら不足するのか」を把握する。そのうえで、不確実性に備える余裕を加えて必要な調達額を考える。この順番が重要です。

ごく簡単に調達額を式で表せば、

必要な調達額 = これから出ていくお金 + 最低限残しておきたいお金 − 現在あるお金 − これから入ってくるお金

となります。ちなみに、入ってくるお金は、金額だけでなくいつ入るか、どの程度確実かを把握しておきましょう。

借入をすれば預金残高は増えます。しかし、同時に負債も増えます。大切なのは借りた金額ではなく、その資金によって事業を維持・回復させ、将来のキャッシュフローから返済できるかです。

■地震が起きてから考えることではない

これは熊本の被災事業者だけの話ではありません。

自社には現預金が月商の何か月分あるでしょうか。

売上が3割落ちた状態が半年続いたら、資金は持つでしょうか。

自社の借入のうち、どれがプロパーで、どれが信用保証協会付きなのか把握しているでしょうか。公庫との取引はあるでしょうか。そして、いざというときに相談できる金融機関との関係はできているでしょうか。

災害だけでなく、取引先の倒産、原材料価格の高騰、事故、急激な売上減少など、資金繰りを悪化させる出来事は突然起こります。

今回の熊本地震で設けられた支援制度は、被災した事業者を支えるためのものです。

同時に、被災していない地域の経営者にとっても、自社がどれだけの危機に耐えられるのか、そして資金をどのように調達するのかを見直す機会になるのではないでしょうか。

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