コラムNo.993 なぜそれをするのか

先日、久しぶりにUSJを訪れました。新しいアトラクションも増えていましたが、それ以上に目についたのが、今ある設備や空間から別の価値を生み出す工夫です。

たとえばジョーズやジュラシック・パークは、夜になると名称や演出を変えます。過去には、既存のジェットコースターを後ろ向きに走らせる「バックドロップ」も投入されました。新しく造るのではなく、今あるものの使い方を変えて、もう一度商品にしています。

こうした発想は、USJが低迷期から回復していく過程でも見られました。

2010年にUSJへ入社した森岡毅氏は、それまでの「映画のテーマパーク」という枠を広げ、映画だけでなく、アニメ、漫画、ゲームなども取り込む方向へ舵を切りました。いわば「映画の専門店」から「エンターテインメントのセレクトショップ」への転換です。

実際、その後のUSJにはモンスターハンター、進撃の巨人など、それまでの映画という枠では扱いにくかったコンテンツが次々と入ってきました。2015年の「ユニバーサル・クールジャパン」も、USJ自身がマンガ、アニメ、ゲーム、音楽など幅広い分野を対象とした企画と説明しています。

ただし、「アイデアだけでお金をかけずに再生した」という話ではありません。

2014年のハリー・ポッターには約450億円を投じています。当時の売上高は700億円以下。会社の規模から見ても相当な投資でした。

その大型投資を控えた2011~2013年には、低予算でも来場者を増やす必要があり、子どもの入場料無料、バックドロップ、ハロウィーンなどを投入しています。つまり、投資をしなかったのではなく、使える資産は使い切り、勝負するところには大きく張ったわけです。

結果として、2014年度の年間来場者数は約1,270万人。前年から220万人、21%増え、当時の過去最高を更新しました。USJ自身も、ハリー・ポッターだけでなく、シーズナルイベントなどが集客に寄与したとしています。

ここまでなら、見事な再生物語です。

しかし、経営に万能な公式はありません。

森岡氏率いる刀が2024年に開業したイマーシブ・フォート東京は、2026年2月に営業を終了しました。

刀自身、想定していた大人数向けのライトな体験より、実際には少人数の濃い体験に需要が偏り、施設規模が過大だったと説明しています。「財務面を含め当初計画との大きな乖離」があったことも認めています。

ジャングリア沖縄も、開業1年間の来場者数は約100万人、売上高は100億円を超える見通しとなった一方、運営会社は来場者数について「思うような数字に至らなかった」としています。まだ開業1年であり成否を決める段階ではありませんが、少なくとも当初想定した集客には届いていません。

ただ、これを単純に「USJでは成功、ジャングリアでは失敗」と比べるのも違います。

USJは、すでにブランドも設備も従業員も来場者も存在する既存事業でした。過去の実績もあり、どこで来場者を失っているのか、何を変えれば反応が変わるのかを検証できます。既存資産を組み替えながら、低迷した事業を立て直していく仕事です。

一方、ジャングリアやイマーシブ・フォートは新規事業の立ち上げです。そもそもどれだけ需要があるのか、誰がいくら払うのか、どの程度の施設規模が適正なのか。その多くを、十分な実績がない状態で予測しなければなりません。

既存事業の再生では、「今あるものの何が悪いのか」を調べることができます。新規事業では、「そもそも市場がどこまであるのか」から仮説を置かなければなりません。同じマーケティングでも、必要になる判断はかなり違います。

USJの成功から本当に見るべきなのは、バックドロップやハロウィーンといった個別の施策そのものではありません。

なぜ、その施策が当時のUSJでは有効だったのか。

既存のブランドと設備があり、来場者のデータがあり、使える資産が残っていた。その一方で資金には限りがあり、ハリー・ポッターへの大型投資を控えていた。そうした条件があったからこそ、既存資産を再編集する施策が意味を持ちました。

成功事例を見るとき、重要なのは「何をしたか」ではなく、「なぜそれをしたのか」です。

条件が変われば、同じ打ち手でも結果は変わります。

USJの再生と、その後の新規事業を並べて見ると、経営では成功した方法そのものより、その方法が機能する条件を見極めることの方が重要だと感じます。

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