「本物そっくり“AI生成レシート“が経費精算の脅威に マネフォ「自力で見破るのは難しい」 企業はどう備える?」2026年9月11日、ITmediaビジネスオンラインはこう題した記事を掲載しました。
生成AIを使えば、本物とほとんど見分けのつかないレシートを作れる。そんなニュースが話題になっています。
確かに技術としては驚きます。経費精算への悪用も考えられるでしょう。ただ、このニュースを見て私が最初に思ったのは、「それほど大騒ぎする話なのだろうか」ということでした。
身も蓋もない言い方をすれば、不正をやる人はやるし、やらない人はやりません。
領収書の改ざんも架空経費も横領も、AIが登場する前からありました。AIによって偽造の完成度が上がり、手間が減ったことは確かです。しかし、不正の本質が変わったわけではありません。
むしろ経営者が見るべきなのは、偽レシートを見破れるかどうかではなく、不正ができる状態を会社の中に残していないかということです。
横領事件では、長年同じ人がお金を扱い、入出金から記帳まで任されていたという話が珍しくありません。誰も確認しない。本人しか分からない。つまり、やろうと思えばできる状態が続いていたわけです。
不正には本人の倫理観や事情も関係します。しかし経営者が直接変えられるのは、社員の人格ではなく環境です。
一人で完結できないようにする。記録を残す。別のデータと照合する。定期的に第三者が見る。不正を完全になくすことは難しくても、「簡単にできる状態」は減らせます。
これは人を疑うという話でもありません。人間を必要以上に強い存在だと考えないということです。
目の前に誘惑があり、誰にも分からず、何度やっても発覚しない。その状態が日常になれば、人の判断が変わる可能性は当然あります。コンプライアンス研修を何度行っても、仕組みの穴を放置していては片手落ちです。
ここで問題になるのが属人化です。
不正や事故につながる仕事は、人から切り離していく必要があります。その一方で、企業の付加価値まで人から切り離せばよいわけではありません。営業担当者の顧客理解も、職人の技術も、経営者の判断も、人による差があるからこそ価値になります。
属人化をなくすこと自体が目的ではない。事故を生む属人化は減らし、価値を生む属人性は生かす。その境界を決めるのが経営です。
そして、今回のニュースでもう一つ重要なのは、経営者が「こういうことまでAIでできるようになった」と知ることです。
最近は「今AIを導入しなければ取り残される」といった話をよく聞きます。私はそこまで急ぐ必要はないと思っています。
インターネットも同じです。導入が多少遅れたことだけで会社が駄目になったケースは、それほど多くないでしょう。それより危ないのは、自分には関係ないと決めて変化を見なくなることです。
新しい技術をすぐ導入する必要はありません。しかし、何が起きているのかは知っておく。そして自社にとっての危険と可能性を考える。
AIで偽レシートが作れるなら、不正防止の仕組みを見直す。同時に、その画像生成技術を営業や商品開発、教育などに使えないかも考える。
経営者に必要なのは、流行を追いかけることではありません。
変化に対してアンテナを張り、必要なものを見極めることです。
何でも飛びつくのも違う。何も見ないのも違う。
新しい技術が次々に登場する時代だからこそ、その間に立って判断することが経営者の仕事なのだと思います。

